歌舞伎いろは

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歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」『盟三五大切』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村七之助

純粋で人間らしさあふれる小万

 ――小万は、悪女の代名詞の「姐妃(だっき)」(殷の紂王の后)の名を冠されるような女性です。

 僕は、あまり悪い人にも見えたくないなというのがあるんです。男が二人いて、好きなほうのために、もう片方をだまし、そっちがどんどん落ちていく。歌舞伎の典型ですよね。ですが、小万は男を惑わす人ではないと思うんです。ただただ三五郎のために働いていたのが、自分自身も歯車がかみ合わなくなり、落ちていき、最終的には我が子も自分も殺されてしまう。そういうことを心がけてあまり嫌な女性にならないように演じたいと思います。

 金が必要だと三五郎に言われ、源五兵衛の前で、皆と芝居を打って死のうとしてみたり、源五兵衛に惚れていると見せかけるために「五大力」の入れ墨を彫ってみたり、どうにかして金を取ろうと無常にもいろんなことをやってしまいます。

 一途さ、行きすぎてしまう怖さ。三五郎も、小万に焼餅を焼くじゃないですか。自分たちが滅びに向かっているのに気付かない。小万は面白い人だと思います。とても純粋で人間っぽい人なんじゃないでしょうか。

「八月納涼歌舞伎」

平成30年8月9日(木)~27日(月)

通し狂言『盟三五大切』
(かみかけてさんごたいせつ)

薩摩源五兵衛 松本  幸四郎
芸者小万 中村  七之助
家主くり廻しの弥助 市川  中 車
ごろつき五平 市川  男女蔵
内びん虎蔵 大谷  廣太郎
芸者菊野 中村  米 吉
若党六七八右衛門 中村  橋之助
お先の伊之助 中村  吉之丞
里親おくろ 中村  歌女之丞
了心 片岡  松之助
廻し男幸八 澤村  宗之助
富森助右衛門 松本  錦 吾
ごろつき勘九郎 片岡  亀 蔵
笹野屋三五郎 中村  獅 童

わかりやすくすればいいものではない

 ――南北のせりふは七五調ではありません。言いづらくはないですか。

 いえ、言いづらいとは思いません。かえって七五調だったりするほうが、簡単にせりふが流れてしまいがちなので、もうちょっとそれを考えないと駄目だなと、常にそう思って勤めています。

 ――『桜姫(東文章)』の桜姫、『お染の七役』の七役、『東海道四谷怪談』のお袖…。南北物のヒロインを、これまでにも数々演じられています。

 南北作品は好きです。人間のどろっとした部分が描かれているのがいいところです。ただ、伏線をぐちゃぐちゃつくっておいて、絡ませたままで終わるのが多い。伏線まではすごく面白いのですが、最後にほどけないというのが多いんですよ。

 コクーン歌舞伎の『桜姫』(平成21年7月)で僕の桜姫は、後ろで清玄がしゃべっているようにし、妄想の中で終わりました。福助の叔父(平成17年6月)の桜姫は、絡まったまま終わりました。僕の桜姫のほうがわかりやすいと言われましたが、さて南北がどっちを望んでいたのか。もしかしたら、絡まったままで終わり、お客様にもなんだったんだろうと思って帰らせるのが南北の意図だったのかもしれない、と僕は考え、ただわかりやすくすればいいもんじゃないなと思いました。

 『盟三五大切』は南北作品のなかで一番すっきりしていると思うので、そこは考えなくて済みます。小万は一貫性があるし、この作品はわかりやすい。すごくよく書かれていると思います。幸四郎さんは源五兵衛を何回もされていますが、僕と獅童さんは初役なので、新たな三人の『盟三五大切』ができればいいのではと思います。

ようこそ歌舞伎へ

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