歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「秀山祭九月大歌舞伎」『俊寛』
今度の舞台を楽しく見るために

ようこそ歌舞伎へ 中村歌六

理屈っぽく考えず、爽やかに出る

 ――歌六さんがお勤めになる丹左衛門は、赦免状に自分の名がないと思い、嘆き悲しむ俊寛の前に現れます。

 重盛公のありがたみを骨髄に知らせるためにしばらく待っていた(「小松殿の御仁心、骨髄に知らせんため、しばらくは控えたり」)、と言います。理屈を言ったら意地悪な気もしますが、そういう違和感を感じさせないように勤めたいと思います。

 丹左衛門が、初めからすんなり出てきてあげれば、あんなに俊寛が嘆き悲しむ必要がないでしょう。そこがお芝居というか、歌舞伎味のあるところでしょうね。変に理屈っぽく考えたりしないで、爽やかにすっと出てきてすっと読み上げたら、お客様も抵抗がないんじゃないかと思います。

 ――丹左衛門はどんな人物だと思われますか。

 気持ちのいい役です。よく考えたら一番正しいことを言っているのは瀬尾です。職務を忠実に遂行しただけの話なんですけれどね。丹左衛門は自分の裁量である程度できる、といいますか、「できる官僚」という感じじゃないでしょうか。

 情のあるお役に見えればいいかと思います。瀬尾との対比ですから。見ただけで、赤っ面の瀬尾は、意地悪な人、白塗りの丹左衛門は、意地悪じゃない人とわかりやすい。浅葱(あさぎ)の衣裳は格好いいとされる役です。瀬尾は1回させていただいたことがあるだけですけれども、あのお役は大変ですよ。

平家女護島『俊寛』(しゅんかん)

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平成27年10月日本特殊陶業市民会館(撮影:松竹株式会社)

 鬼界ヶ島の浜に暮らす俊寛僧都の庵へ、同じ流人の平判官康頼、丹波少将成経がやって来ました。成経と恋に落ちた島の海女、千鳥を迎え、康頼が仲人役となって四人が祝言の真似事をしているところへ、赦免船が到着。平家の侍、瀬尾太郎兼康が成経と康頼に赦免を告げますが、清盛への恩を忘れ鹿ケ谷で謀反を起こした俊寛は残れとのこと。嘆く俊寛に後から現れた丹左衛門尉基康が、俊寛の赦免状を読み上げました。喜びいさんで船に乗ろうとするところ、千鳥は乗せないという瀬尾。丹左衛門がなだめすかすのを聞かないばかりか、俊寛の妻の東屋が首討ちになったと言い放ちます。俊寛は、引き離されて死のうとする千鳥を止め、自分の代わりに船に乗せようとしますが、瀬尾は許しません。ついに瀬尾の刀を奪い、斬りつけた俊寛。丹左衛門が止めるのも聞かず瀬尾にとどめを差すと、上使を斬った咎(とが)で島に残ると言い、皆を乗せて遠ざかる船をいつまでも見送るのでした。

祖父も勤めている丹左衛門

 ――高股立ちをとって足を出す姿もきれいですね。

 僕は脚は細いです! 細すぎて綿を入れることもあります。上半身とのバランスが悪かったりするのでそうしています。丹左衛門は白いので、それほど違和感はないでしょうけれど、赤っ面系の高股立ちとかのときは、細すぎちゃうかなと思って中に綿の入ったものをはいてから、色のついた肉をはきます。暑いですよ。

 ――動きなどで気をつけられることはありますか。

 脚の動きがそのまま見えますから、膝が曲がったり、がに股にならないほうがいいかなと思っています。

 ――これまでに猿翁さん、段四郎さん、白鸚さん、そして今回の吉右衛門さんの『俊寛』にも何度もご出演されています。

 康頼を演じ、その後、丹左衛門と瀬尾を勤めました。『俊寛』というお芝居は、女性の身替りになって俊寛が一人だけ島に残る。どなたにでもわかっていただける演目だと思います。

 丹左衛門に関してはどなたの俊寛でも、することは変わらないです。瀬尾とコンタクトがあるぐらいで、自分だけで処理できちゃう役なんじゃないかと思います。丹左衛門は祖父(三世時蔵)も勤めておりました。祖父は女方でしたが、立役も好きでしたね。

ようこそ歌舞伎へ

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