歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



御園座「吉例顔見世」『与話情浮名横櫛』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 中村梅玉

名ぜりふは日々、試行錯誤

 ――「しがねえ恋の情けが仇」など名ぜりふの散りばめられた作品です。

 気持ちよくやらないとだめなのですが、そこで上滑りしてはいけない。聞かせどころのあるお役には全部通じることですが、そこが大事にしなければいけないところです。お客様に、待ってましたと言わせるくらいの間の取り方などが、最初のうちは全然わからなくて無我夢中でやっていました。

 8回もやるうちには、いろんなやり方も試しました。お客様の雰囲気に合わせることも必要なので、その日の反応というか、そういうことも考えながら日々、試行錯誤している感じです。

 ――最初は手順を覚えるのが大変でいらしたのでしょうか。

 そうです。手順と型からどうしても入ります。わざとらしく見えないかを最初は随分気にしました。訪ねた家の女性が、お富と気が付き、「あっ」となるわけですが、その間(ま)もわざとらしくなっちゃあいけない。リズムが同じでは面白くないんですよね。そういうところは回を重ねないとうまくできません。

御園座「第四十九回 吉例顔見世」

平成30年10月1日(月)~25日(木)

『与話情浮名横櫛』
(よわなさけうきなのよこぐし)

切られ与三郎 中村  梅 玉 
お富 中村  時 蔵 
鳶頭金五郎 河原崎 権十郎
番頭藤八 市村  橘太郎 
蝙蝠安 市川  團 蔵
和泉屋多左衛門 市川  左團次 

今も心に残る三人の舞台

 ――初演(平成3年10月国立劇場)では(三世)権十郎さんに教わられたとうかがいました。

 若いときに拝見した十一代目の成田屋(團十郎)のおじさんの与三郎、父(六世歌右衛門)のお富、(十七世)勘三郎のおじさんの蝙蝠安(昭和38年1月歌舞伎座)。その三人の舞台の素晴らしさをずっと思っていたので、やるのだったら成田屋さんの型でと思い、十一代目のおじさんの薫陶を受けた山崎屋のおじさん(三世権十郎)に教えていただきました。

 ――どんな教えが印象に残っていらっしゃいますか。

 江戸の世話物の粋な感じが出るのが一番で、しかも与三郎は元若旦那だから、あまり強くなってもいけない、どこかに甘えん坊の雰囲気を残していなければいけないと言われました。名ぜりふで、お客様に酔っていただくには、自分もある程度酔ってせりふを言わなければいけないんだけれども、上っ面だけの流れになっちゃうのはよくない、ということは、権十郎のおじさんにも、ずっと稽古を見てくれた父にも言われました。

 ――いろいろなお富さんとなさいましたね。

 お富あっての与三郎ですから、お互いに惚れ合ったという雰囲気を、お富さんにも出して欲しいし、与三郎に焼餅を焼かせるような感じを出さないといけないというところが役の性根でしょうね。

 ――与三郎は34カ所の傷を受けています。

 俳優によっていろいろ傷の描き方は違いますが、僕はあまり顔には傷をつけません。もちろん頬の十字の傷は必要で、鬘(かつら)の三日月の傷は初めから仕込んでありますが、顔にはあまり描きません。本当は背中にもあるわけですから、描くのは手足など20カ所ぐらいにしています。それ以上描いたら傷で埋まっちゃいます。

 僕は、紅と茶の油を膠(にかわ)で溶いて描いて、汗で流れないように上は水絆創膏でコーティングしています。

ようこそ歌舞伎へ

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