【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
『弁天娘女男白波』
写真左「浜松屋見世先」
①左より、中村種之助の鳶頭清次、坂東巳之助の南郷力丸、尾上松也の弁天小僧菊之助
②左より、中村米吉の浜松屋伜宗之助、坂東巳之助の南郷力丸、嵐橘三郎の浜松屋幸兵衛、尾上松也の弁天小僧菊之助、中村歌昇の日本駄右衛門
写真右「稲瀬川勢揃い」
左より、坂東巳之助の南郷力丸、尾上右近の赤星十三郎、中村隼人の忠信利平、尾上松也の弁天小僧菊之助、中村歌昇の日本駄右衛門
音羽屋
平成4年5月28日生まれ。七代目清元延寿太夫の二男。
平成12年4月歌舞伎座で初舞台、平成17年1月新橋演舞場で二代目尾上右近を襲名。
播磨屋
平成5年2月22日生まれ。中村又五郎の二男。
平成11年2月歌舞伎座で初舞台。
播磨屋
平成5年3月8日生まれ。中村歌六の長男。
平成12年7月歌舞伎座で初舞台。
萬屋
平成5年11月30日生まれ。中村錦之助の長男。
平成14年2月歌舞伎座で初舞台。
――続いて午後の部にまいりましょう。
種之助: 最後の狂言の話を先にしてしまいますが、七人全員が出られる狂言、『闇梅百物語』があったのはとてもよかったと思いました。特に、幕切れに全員そろうところが。
米 吉: 『弁天娘女男白浪』も全員出ていますが、「浜松屋」と「稲瀬川勢揃い」に分かれますからね。お正月の浅草はそれぞれ出演演目が別でしたから、とてもうれしいです。
隼 人: 一つすごく気になっているんですが、右近さんののっぺらぼう、セリで下がっていくときに奇怪な声を出すじゃないですか。あれは苦しんでいるんですか?
右 近: あれは笑ってるんです(笑)。喉にけっこう負担がかかりますが頑張ってます! それとお面に覗き穴が開いてないので、右も左も分からない真っ暗闇。すごい孤独です。
種之助: 僕の骸骨の場面も何も見えない。骨がお客様にどのように見えているか、考えながら踊っています。隼人君の河童は、今回は緑に塗らなかったんだよね。
隼 人: 緑に塗ってしまうと誰だかわからなくなってしまうからと、振付の宗家(藤間勘十郎)が考えてくださって…。どうやって河童になっているかはぜひ舞台でご覧ください。そして、僕と正反対なのが米吉君。『助六』に出られそうなくらい普通な拵えの新造です。
米 吉: そう、それで“物の怪感”を出すのは大変!(笑)
右 近: 皆が次々に出てきて、最後は勢揃いで終わるのはとてもいいけれど、全体で一つの狂言だという意識をもっと持たないと、役者紹介で終わる危険性もあるかなと。だから、自分はこうやりたい!をもっと強く出していきたいと思っています。
――もう一つ、七人全員ご出演の『弁天娘女男白浪』、まずは「浜松屋」に出ている種之助さんと米吉さんから、いかがですか。
種之助: とっても楽しいです! 世話物の経験がほとんどなかったので、あの空間にいられるということ自体がうれしいのですが、同時に、世話物の登場人物になることがこんなに難しいものかということも痛感しています。一瞬でも違う空気を出すと、あの空間を壊しかねないんだなと。
米 吉: そうなんです。特段、何をするわけでもなく、それでいながらあの空気に溶け込んで、何をしてもその役でなければならないというのは、本当に難しいです。
種之助: それをさらっとやっていらっしゃる先輩方が、どれだけすごいのかという話ですね。
隼 人: それは「稲瀬川勢揃い」も同じです。五人で傘を持って構えるあの形をそろえることがこんなに大変なのかと。先輩方は何気なくやって綺麗に決まるけれど、僕らがそこにもっていくには、気を付けなければならないことだらけ。それと先輩方だと五人それぞれの“らしさ”、役の特徴がポンと出るじゃないですか。忠信と南郷の両方をなさる方もいらっしゃるけど、忠信を演じるときはすっとその色になる…。
右 近: 一つには、先輩方は役者としての色が確立されていることがあると思うんです。僕らがすぐにそこへ到達できるわけではないので、古風なやり方からはみ出るくらい、やり過ぎるくらいに自分の色を出してもいいのでは? 原色に近い色を出すくらいの気持ちも大事なんじゃないでしょうか。
――ではこの四人でこれからやってみたいことはありますか。
右 近: ずーっと一緒にいたいです!
米 吉: おのずとそうなるのではないのかな。(笑)
種之助: 僕は一年中一緒に興行したいくらいの気持ちになっています。改めて、尊敬する人に尊敬されたいと思ったんです。僕は皆を尊敬しているので、その人たちに尊敬されるような自分になりたい。おじさん方や父たちへの尊敬とはまた少し違いますが…。
右 近: 認めている人に認められたい?
種之助: そう! そういう感じ。
隼 人: ほぼ同い年にこれだけ役者がいるというのは、とても幸せなことですよね。同じ役をやることもあるだろうし、意識しないでいられるわけがない。つまり、高め合える相手がたくさんいるということですから。
米 吉: 父たちの世代もそうだったと聞きますよね。お互いを意識して、切磋琢磨していかなければと思います。
種之助: 違う劇場に出ているときでも、同世代の舞台を見に行った日の夜は、自分のことを振り返っていろいろ考え直したりするんですが、共演しているとそれが毎日でしょう。すごく刺激的です。
米 吉: もちろん大歌舞伎でも勉強したいし、しなければなりませんが、若手だけの公演にも大きな意味があるなと、今回、身に染みて感じました。
右 近: インプットとアウトプットのバランスを取りたいですね。僕はこの公演が終わると、次はいつ皆と一緒にやれるかわからないから、なおのこと、今の時間が貴重だしありがたいし、千穐楽が来るのがとってもイヤです。ほんと、寂しい…。
米 吉: せっかくだから、この四人で何かやれたらいいですね。
――前回、ひと言でそれぞれを表していただきましたが、今回も同じことをぜひ。
隼 人: ひと言だと言い切れないので、少し考えさせてください(一同うなずく)。
種之助: じゃあ僕から。(右近さんを)尊敬しています。僕はおじさんや父を目指して修業していますが、右近君と話したり共演するとその道に違う刺激が加えられる、価値観が広がる気がするんです。それは役者として尊敬しているからだと思う。
右 近: すごいうれしい。(隼人さんは)僕は割とすぐに「大丈夫!」と思ってしまうところがあるんですが、彼は「本当に?」と疑問を投げかけてくれる。こんないい男ですけれど、とても深くいろいろ考えている。そしていい男であることをちょっと悩んでいるみたいです。逆コンプレックスなのかな。
隼 人: 痛いところをつかれてしまいました。(米吉さんは)共演も多いし親戚だし似ているところもあるんですが、右近さんが「同世代で一番楽屋の匂いがする人」と言ったのを聞いて、そうだなと思いました。そこは僕は正反対だと思うのでうらやましい。それはつまり芝居の匂い、芝居への適応力。歌舞伎の一番大事なところだと思うので尊敬します。
米 吉: あ、うれしい。(種之助さんは)本当に楽しそうに踊るんですよね。見ているこっちが楽しくなるくらい、楽しそうに踊っているように見える。すごい価値のあることだと思います。悩むこともあるだろうにそう見せない。言ってしまえば愛嬌なのかな。そこをとても尊敬しています。
右 近: 今日のキーワードは「尊敬」ということかな(笑)。
種之助: そうみたい(笑)。時には喧嘩したっていいけど、これからも尊敬し合いながら切磋琢磨していきましょう。
米 吉: 三回目の座談会もいつかぜひ。
三人: もちろん、やりましょう!
『闇梅百物語』
左より、中村隼人の赤松隼人之正、中村米吉の奥女中揚羽、尾上松也の大内義弘、中村種之助の読売種八実は白狐、中村歌昇の赤松播磨守政則、尾上右近の赤松家息女音羽姫、坂東巳之助の奴巳之平
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