【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
絵:あべ弘士 インタビュー・文:矢口由紀子 写真:松竹写真室 構成:歌舞伎美人編集部
獅童さんにお話をうかがったのは初日目前の稽古場。といっても、前日には、ひびのこづえさんが担当した衣裳合わせがあり、動物たちのビジュアルがおおよそ見えてきた感じのところでありました。
――衣裳をご覧になっていかがでしたか。
ひびのさんらしい楽しさがあって、とてもステキだと思いますよ。それにとてもわかりやすいんです。たとえば、幕開きにヤギチームとオオカミチームが出てきますが、それがひと目で、こっちがヤギ、こっちがオオカミとわかるようになっています。
といっても、雰囲気はとても歌舞伎っぽい。古典的なものをベースに、ちょっとした工夫でそれぞれの動物らしさが表現されているんです。それがどんなものかはご覧いただいてのお楽しみですが、動物ばかりの芝居?じゃ着ぐるみ劇?と想像していらっしゃる方は、ちょっと驚くかもしれませんね。
――鬘(かつら)には工夫があるのでしょうか。
これも鬘屋さん、床山さんが知恵を絞ってくださって面白いものになりました。ただ、こちらも元は歌舞伎をよくご覧になっている方なら「見たことある」ものばかりです。僕らがいつも使っている頭の中で、オオカミにいちばん近いのは?ヤギらしいものは?と考えて、それをベースに工夫していただきました。
僕が演じるオオカミのがぶは何が元かって? 秘密にしておきたいところですけれど、例の“大盗賊”です。それにいろいろな工夫をして「オオカミらしく」なっています。
――『あらしのよるに』は新作ではあるけれど、とても古典的な歌舞伎の様式を元にしてつくりたいとおっしゃっていましたが、そういうことなんですね。
そうです。音楽も現代の音を入れたりはしません。義太夫、長唄など聞き馴染んだものです。ただ、使い方がいつもとは違うかもしれない。へぇ、って驚かれるところがたくさんあると思いますよ。
取材をした日の稽古の終盤には、クライマックスの立廻り稽古が行われました。この場面には映画や舞台で活躍する立師の渥美博さんが担当。大人数が入り乱れての激しい立廻りになりました。
――ここの立廻りは、古典歌舞伎とはまったく違う展開になるのですね。
渥美さんにやっていただくので、大人数が入り乱れての面白い立廻りになると思います。ただ、ここに至る導入部は、古典の手法を使っているんです。どうするかは、これも見てのお楽しみですが、古典の動きから派手なアクションへ一挙にパンとはじける…、このつながりはかなり面白いと思います。
――とことん、古典的手法をベースにすることにこだわれたのでしょうか。
演出のご宗家(藤間勘十郎)とも擬古典のようなやり方はどうだろうかという話をさせていただいたのですが、古典の手法で、どう新しいものがつくりだせるかというのが、この作品の眼目だと思っています。『金閣寺』のような浄瑠璃の場面があったり、オオカミとヤギたちによる群舞があったり、狐六方があるんだからオオカミを表現する六方があったっていいじゃないかという場面もあります。ですから、すべてが古典の手法、様式の上でつくられていると言っていいと思います。
――新しい作品をそういうやり方で生み出せるのは、歌舞伎ならではの強みといっていいでしょうか。
実際、これだけの短期間の稽古で新しい作品をつくるなんて、歌舞伎以外では考えられないでしょう。俳優も演奏家も裏方さんも、「ここはあれのあれで」で通じるからできる。数百年かけて培われた歌舞伎の手法は、堅固かつ柔軟なので、新しい発想を持ち込んでもいかようにも対応できるんです。
たぶん、歌舞伎をよく知る方ほど『あらしのよるに』を楽しんでいただけるのではないでしょうか。あそこからこれを持ってきたんだなとか、あれをこうしたのかとか。もちろん、歌舞伎を知らないに方にも、原作の友情物語の奥深さや、歌舞伎でやるとこうなるのかという面白さを存分に味わっていただけると思います。
原作の名せりふ、「友だちなのにおいしそう」も登場しますが、憎しみや捕食関係すら超える友情がステキに描かれていて、素晴らしい物語を演じられる幸せも感じています。
歌舞伎繚乱
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