歌舞伎いろは

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歌舞伎繚乱 沙門(しゃもん)空海(くうかい)唐(とう)の国(くに)にて鬼(おに)と宴(うたげ)す ―前篇― 歌舞伎座「四月大歌舞伎」新作歌舞伎『幻想神空海』特別企画

新しい歌舞伎座に4本目の新作歌舞伎が登場!夢枕獏の原作をもとに新たに書き下ろされた新作歌舞伎『幻想神空海 沙門空海唐の国にて鬼と宴す』の魅力に迫るスペシャルコンテンツ、舞台の表も裏も、しっかりお見せします!!

[前篇]はこちら!

第一章 沙門空海とはいったい何者なるか ―― 弘法大師空海、若き日に唐土で ――

 宝亀5(774)年に讃岐(現在の香川県)に生まれた空海は、20歳で出家し、31歳で留学僧として唐へ渡ると、長安で真言密教の修行を重ねます。教えをすべて受継いで2年後には帰国、天皇の許しを得て真言宗を開きました。承和2(835)年、高野山金剛峯寺の奥之院に入定(にゅうじょう)、後に弘法大師の諡号(おくりな)を賜りました。

 今回の作品について染五郎は、「密(密教)を盗んで日本に持って帰るというはっきりした目的があって唐に渡り、20年かかると言われていたところをもっと早く、という気持ちで過ごしていた2年間の話です。いろんな出来事が起こりますが、眉間にしわを寄せることなく、自然体で向かって行く…。それは、とてもまねできない修行、荒行を積んでこられたから。あらゆるものを受け入れられる自分、その強さがあるからだと思います」と語りました。

原作はこちら! 「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」巻ノ一~巻ノ四 夢枕 獏 著(角川文庫)各679円(税込)

  1. 巻の一
  2. 巻の二
  3. 巻の三
  4. 巻の四

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第二章 染五郎、雨の高野山 ――弘法大師様にご報告 高野山金剛峯寺にて――

 「スケール感と歴史の重さ。本当に素敵なところですね」。空海が開いた聖地高野山、総本山金剛峯寺を訪れた染五郎は、自然も建物も長きにわたり「維持しているのではなく、進化して時代に生き続けている」ことを強く感じたと言います。

 今も、空海が入定した奥之院には一日2回、食事が運ばれている…。そんな超人、空海を演じるにあたっては、「もう“勘違い”するしかない。生き続けていらっしゃる弘法さまを普通の人間が演じるのは無理ですから」。思い切って演じる、それが、空海の息吹を感じ、高野山のスケールに圧倒された染五郎の結論。空海は何を語るにも説教じみず、「自分が感じているままを話す」と言った染五郎。「唐にいる空海は、ただただ密教を学んだではなく、自身も成長して行く。今回の芝居ではそういう部分も感じていただければと思います」。

奥之院では公演の成功を祈願する「御法楽」が行われた。空海に大きく近づいた一日でした!
宣伝材料用に撮影した空海の扮装の染五郎。本番の舞台ではどんな衣裳で登場するのか!

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第三章 染五郎、き乃はちの音楽づくり ――染五郎、中国琵琶を奏で唄う――

 『幻想神空海』の音楽は、すべてき乃はちの新作。2月下旬に台本作成と並行して音楽づくりがスタートしました。3月中旬の仮レコーディングの際に、染五郎が舞台で中国琵琶を弾き語りし、生歌唱を行うことが決定。実は、当初は二胡(にこ)の予定でしたが、奏者から「空海は中国琵琶の方がふさわしい」とのアドバイスを受け、染五郎はすぐさま中国琵琶の特訓を開始しました。

 3月22日(下の集合写真を撮影した日)の本番レコーディングには、き乃はちの尺八を中心に、笛、古筝、中国琵琶、薩摩琵琶、打楽器の奏者が集合し、見事に『幻想神空海』の音楽が生み出されました。その場で染五郎が中国琵琶を披露すると、「短時間でよくここまで」と演奏者たちから驚きの声が上がりました。

染五郎が中国琵琶の弾き語りを稽古中(写真右)。き乃はち(写真左、右から3人目)との音楽づくり、歌舞伎ではあまり馴染みのない、中国楽器の音色が響く!

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第四章 新作歌舞伎誕生前夜 ――稽古場が熱い! たたみかけるせりふの応酬!――

 『幻想神空海』は新しい歌舞伎座にとって4本目の新作歌舞伎です。新作だからといって創作の時間を特別に長くとるようなことはなく、時間との戦いでもあります。今回は通常より少し早い段階で稽古が開始され、少ない時間でできる限りの準備を積み重ねました。いよいよ本稽古が始まり、下の写真は本稽古2日目、歌舞伎座稽古場で行われた稽古の模様。出演者がそろい、それまでつくり上げてきた部品を組み上げていくように、作品の骨格をつくっていきます。

 演出家の齋藤雅文と主演の染五郎(空海)を中心に、歌六(丹翁)、雀右衛門(楊貴妃)、又五郎(白龍)、彌十郎(黄鶴)、松也(逸勢)、歌昇(白楽天)、種之助(牡丹)、米吉(玉蓮)、児太郎(春琴)らが、それぞれにつくり上げてきた役を作品世界のイメージにすり合わせて、一つの大きな世界観を築いていきます。台本におのおのが細かい修正や書き込みを加えながら、一歩一歩着実に前へと進み、台本に書かれたただの文字が立ち上がって、新しい時空が誕生する…。歌舞伎座の稽古場独特の緊張感、やらなければならぬという使命感、新たな歌舞伎を生み出そうとするワクワク感、それらが入り混じった熱い空気が流れていました。

「長安西の市」空海(染五郎)は2年で中国密教のすべてを手に入れると言い、驚く逸勢(松也)。空海と逸勢のやりとりは、この作品の醍醐味。
「胡玉楼」にて、空海(染五郎)、逸勢(松也)、玉蓮(米吉)、牡丹(種之助)が語り合っている。空海はここから皇帝呪詛の怪異に踏み込んでいく。
「劉雲樵の屋敷」空海(染五郎)と春琴(児太郎)。春琴の持つ扇子は葡萄酒を注ぐ酒器の心、空海は注がれた葡萄酒を飲む。
「馬嵬駅楊貴妃の墓」から楊貴妃の本当の物語が語り明かされ、クライマックスへと向かって行く。右から丹翁(歌六)、空海(染五郎)、逸勢(松也)。
「華清宮」楊貴妃(雀右衛門)の舞もこの作品の重要な場面。題名の『鬼と宴す』のクライマックスはここから始まる。
今回は、松本錦升として振付も担当した染五郎。稽古場で夢枕獏世界の“生き物”たちに命を吹き込む。
黄鶴(彌十郎)の登場で解き明かされる物語、見守っているのは後に楊貴妃を描いた長恨歌を書く白楽天(歌昇)。手前は楊貴妃(雀右衛門)と玉蓮(米吉)。
演出家の齋藤雅文とイメージをすり合わせていく、空海(染五郎)、白龍(又五郎)、黄鶴(彌十郎)。独特でスケールの大きな世界に出演者一丸となって挑む。この後、憲宗皇帝(幸四郎)と廷臣馬之幕(廣太郎)が登場する大団円となるが、それは本番の舞台を見てのお楽しみ!

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歌舞伎座「四月大歌舞伎」新作歌舞伎『幻想神空海』

高野山開創一二〇〇年記念 夢枕 獏 原作 戸部和久 脚本 齋藤雅文 演出

公演情報はこちら

新作歌舞伎 幻想神空海(げんそうしんくうかい) 沙門空海唐の国にて鬼と宴す
空海 市川 染五郎 橘逸勢 尾上 松 也 白龍 中村 又五郎 黄鶴	坂東 彌十郎 白楽天 中村 歌 昇 廷臣馬之幕	大谷 廣太郎 牡丹 中村 種之助 玉蓮	中村 米 吉 春琴 中村 児太郎 劉雲樵 澤村 宗之助 楊貴妃 中村 雀右衛門 丹翁 中村 歌 六 憲宗皇帝 松本 幸四郎

歌舞伎座「四月大歌舞伎」新作歌舞伎『幻想神空海』

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