【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
宝亀5(774)年に讃岐(現在の香川県)に生まれた空海は、20歳で出家し、31歳で留学僧として唐へ渡ると、長安で真言密教の修行を重ねます。教えをすべて受継いで2年後には帰国、天皇の許しを得て真言宗を開きました。承和2(835)年、高野山金剛峯寺の奥之院に入定(にゅうじょう)、後に弘法大師の諡号(おくりな)を賜りました。
今回の作品について染五郎は、「密(密教)を盗んで日本に持って帰るというはっきりした目的があって唐に渡り、20年かかると言われていたところをもっと早く、という気持ちで過ごしていた2年間の話です。いろんな出来事が起こりますが、眉間にしわを寄せることなく、自然体で向かって行く…。それは、とてもまねできない修行、荒行を積んでこられたから。あらゆるものを受け入れられる自分、その強さがあるからだと思います」と語りました。
「スケール感と歴史の重さ。本当に素敵なところですね」。空海が開いた聖地高野山、総本山金剛峯寺を訪れた染五郎は、自然も建物も長きにわたり「維持しているのではなく、進化して時代に生き続けている」ことを強く感じたと言います。
今も、空海が入定した奥之院には一日2回、食事が運ばれている…。そんな超人、空海を演じるにあたっては、「もう“勘違い”するしかない。生き続けていらっしゃる弘法さまを普通の人間が演じるのは無理ですから」。思い切って演じる、それが、空海の息吹を感じ、高野山のスケールに圧倒された染五郎の結論。空海は何を語るにも説教じみず、「自分が感じているままを話す」と言った染五郎。「唐にいる空海は、ただただ密教を学んだではなく、自身も成長して行く。今回の芝居ではそういう部分も感じていただければと思います」。
『幻想神空海』の音楽は、すべてき乃はちの新作。2月下旬に台本作成と並行して音楽づくりがスタートしました。3月中旬の仮レコーディングの際に、染五郎が舞台で中国琵琶を弾き語りし、生歌唱を行うことが決定。実は、当初は二胡(にこ)の予定でしたが、奏者から「空海は中国琵琶の方がふさわしい」とのアドバイスを受け、染五郎はすぐさま中国琵琶の特訓を開始しました。
3月22日(下の集合写真を撮影した日)の本番レコーディングには、き乃はちの尺八を中心に、笛、古筝、中国琵琶、薩摩琵琶、打楽器の奏者が集合し、見事に『幻想神空海』の音楽が生み出されました。その場で染五郎が中国琵琶を披露すると、「短時間でよくここまで」と演奏者たちから驚きの声が上がりました。
『幻想神空海』は新しい歌舞伎座にとって4本目の新作歌舞伎です。新作だからといって創作の時間を特別に長くとるようなことはなく、時間との戦いでもあります。今回は通常より少し早い段階で稽古が開始され、少ない時間でできる限りの準備を積み重ねました。いよいよ本稽古が始まり、下の写真は本稽古2日目、歌舞伎座稽古場で行われた稽古の模様。出演者がそろい、それまでつくり上げてきた部品を組み上げていくように、作品の骨格をつくっていきます。
演出家の齋藤雅文と主演の染五郎(空海)を中心に、歌六(丹翁)、雀右衛門(楊貴妃)、又五郎(白龍)、彌十郎(黄鶴)、松也(逸勢)、歌昇(白楽天)、種之助(牡丹)、米吉(玉蓮)、児太郎(春琴)らが、それぞれにつくり上げてきた役を作品世界のイメージにすり合わせて、一つの大きな世界観を築いていきます。台本におのおのが細かい修正や書き込みを加えながら、一歩一歩着実に前へと進み、台本に書かれたただの文字が立ち上がって、新しい時空が誕生する…。歌舞伎座の稽古場独特の緊張感、やらなければならぬという使命感、新たな歌舞伎を生み出そうとするワクワク感、それらが入り混じった熱い空気が流れていました。
歌舞伎繚乱
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三喬 改メ 七代目笑福亭松喬 襲名披露×大海酒造
大阪松竹座「三喬 改メ 七代目笑福亭松喬 襲名披露公演」で、江戸時代から続く上方落語の名跡、笑福亭松喬が七代目として復活します。師からその名を継ぐのは笑福亭三喬。1年にわたる襲名披露興行の第一歩を10月8日(日)、大阪松竹座で踏み出します。
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KABUKI by KISHIN 篠山紀信特別インタビュー
始まりは47年前、玉三郎さんの舞台を撮影したこと。以来、俳優の刹那を撮り続けてきた篠山さんの作品が408ページの写真集になりました。掲載されているのは、総勢53人もの歌舞伎俳優の姿。篠山さんだからこそ撮れる、迫力の写真の秘密とは。
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「耳をすまして舞台を見る楽しみを」~歌舞伎ギャラリー演奏会の一年を振り返って~ 前篇
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歌舞伎座「四月大歌舞伎」新作歌舞伎『幻想神空海』―前篇―
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京都四条南座『あらしのよるに』中村梅枝 中村萬太郎
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