【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
- "田中傳左衛門(田中流家元、歌舞伎囃子協会会長)
- 杵屋巳太郎(尾上菊五郎劇団音楽部部長)
- 竹本葵太夫(竹本協会理事長)
田中傳左衛門
(たなか でんざえもん)
歌舞伎囃子方、田中流家元
昭和51年、東京生まれ。父は能楽師葛野流(かどのりゅう)大鼓方家元亀井忠雄、母は歌舞伎囃子方田中流前家元九世田中佐太郎。
父、母、八世観世銕之丞、八代目芳村伊十郎に師事、5歳で初舞台。
平成4年1月、七世田中源助を襲名、立鼓となる。
平成16年2月、十三世田中傳左衛門を襲名、田中流家元となる。
歌舞伎囃子協会会長。
杵屋巳太郎
(きねや みたろう)
長唄・三味線方
昭和41年、東京生まれ。
昭和57年 七代目杵屋巳太郎に入門。
昭和59年 二代目杵屋巳吉襲名。菊五郎劇団音楽部に入部。
平成24年12月 八代目杵屋巳太郎襲名。
尾上菊五郎劇団音楽部部長、一般社団法人長唄協会理事。
竹本葵太夫
(たけもと あおいだゆう)
竹本・太夫
昭和35年、東京生まれ。
昭和51年8月 女流義太夫の太夫竹本越道に入門。
昭和54年7月 竹本葵太夫を二代目として許され、初舞台。
昭和55年3月 国立劇場第三期竹本研修修了。
竹本協会理事長・同事務局長、一般社団法人伝統歌舞伎保存会理事、一般社団法人義太夫協会理事、歌舞伎音楽専従者協議会理事。
歌舞伎座ギャラリーという歌舞伎上演の舞台とはまったく異なる条件での演奏会。実はそこは、出演者にとっていろいろな意味で貴重な、そして絶好の場所でした。三人それぞれのこんな魅惑的すぎる“たくらみ”が、歌舞伎音楽を変えていくかもしれません。
取材・文=矢口由紀子 写真=松竹写真室 構成=歌舞伎美人編集部
――演者とお客様の距離が歌舞伎座よりもとても近いです。
傳左衛門:初めてギャラリー演奏会に出た人たちは、そこに驚くようです。私自身は、幼い頃から家の演奏会などがあったので、聴き手との距離が近いという経験がありましたが、弟子たちはとても驚いていました。
巳太郎:私もお座敷での“おつきざらい”などを経験してきていますので、さほど驚きませんでしたが、今の若い人たちはいきなり大劇場で修業していますから、こういった小さな、濃い空間での演奏は、まずそのことに圧倒されてしまうようです。とてもいい経験だと思います。
この空間で大薩摩の大迫力(第五回)
葵太夫:この距離感は勉強以外の何物でもありませんね。
傳左衛門:もう一つ、小さいスペースならではだと感じたのは、若手も見られていると自覚するようになったことなんです。本興行ですと、僕らは舞台の後方におりますので、見られている感覚が薄い。でも、実際は見られていて、目が泳いでいたりするとお客様は気になるのですよね。歌舞伎座ギャラリーですと息づかいも聞こえるくらいですから、見られていることを自覚できる。そういった意識も養える場だと思います。
――2年目に入りました。これからなさりたいことは。
巳太郎:やはりスタンダードナンバーをやっていきたいと思っております。奇をてらわない演奏で場数を踏む、それが、演奏者にもお客様にもいい企画なのではと思います。
傳左衛門:私も同じ曲が繰り返し出てもいいと思っています。「これ何?」と思われるより、歌舞伎座で一度は聞いたことのあるようなもののほうが、耳馴染みがいいですよね。
季節に合わせて浴衣で登場したことも(第十一回)
葵太夫:二部構成といったものも面白いのではないでしょうか。休憩をはさんで一部は長唄、二部は竹本とか。季節に合わせた題材はもちろん、その月の出し物に関連したものなども手がけてみたい。それと、とても若い三味線弾きさんとベテランの語り、もちろん逆もありますが、本興行ではない顔合せもいいなと考えております。
傳左衛門:それ、いいですね。稽古能では、養成所を出たばかりの若手のなかに、たとえば父(亀井忠雄 能楽囃子葛野流大鼓方、人間国宝)などが一人混じって演奏します。芯になる人が一人いるだけで、研鑽のレベルが段違いになります。
――お互いへのご希望はありますか。
巳太郎:掛け合い物を、ぜひ。『素襖落』や『紅葉狩』など、竹本と長唄の掛け合いのある狂言はいくつもありますが、若い人たちは受け渡しからしてわからないんです。譜面に書けないし、体で覚えてもらわないといけません。ここで勉強してほしいです。
葵太夫:私どもは竹本だけでやってまいりましたので、将来的には傳左衛門さんの社中の若手の方に加わっていただいて、お囃子の入る義太夫をと願っています。一調一管でもいいと思いますので、ぜひに。
秋は「関寺小町」でした。お正月に期待!(第十三回)
傳左衛門:私は竹本さんに(第十三回で上演された)『花競四季寿(はなくらべしきのことぶき)』をぜひコンプリートしていただきたい。10月に「関寺小町」を演っていただきましたので、ほかの三つも必ず。
葵太夫:シリーズでやりたいと思っていたところです。お正月に「萬歳」、2月3月に「鷺娘」、夏に「海女」と続けられたら。それと、『式三番叟』もきっちりやりたいと…。
――お話は尽きませんが、最後に今後の抱負を。
葵太夫:歌舞伎座ギャラリーでやってみたいことはいろいろございますので、楽しみにお待ちいただけたら幸いです。おいおい、お客様の反応を見ながら企画をと考えております。
巳太郎:若手の技芸向上です。この最適の機会を続行させていきたい。若手もとにかく喜んで、出たい、出たいと言ってくれております。
傳左衛門:言い出しっぺということで、今は私が調整役のようなことをしておりますが、この企画が続いていることで、私たちの横のつながりが広がった気がしているのです。
葵太夫:そうですね。少なくとも、月に一度は傳左衛門さんからメールを頂戴するようになり、お話する機会が増えました。
傳左衛門:お忙しいところ、お邪魔しております(笑)。そうしてコミュニケーションをとらせていただけるのがたいへんありがたいですし、本興行においても今後、いい結果につながるのではと思っております。皆様にご期待いただければ幸いです。
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