【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
インタビュー・文:矢口由紀子
写真:ZIGEN 構成:歌舞伎美人編集部
音羽屋
平成4年5月28日生まれ。
七代目清元延寿太夫の二男。
平成12年4月歌舞伎座で初舞台、平成17年1月新橋演舞場で二代目尾上右近を襲名。
南座へは平成24年4月「坂東玉三郎特別舞踊公演」『日本振袖始』手摩乳長者娘稲田姫で初出演以来5度目。
播磨屋
平成5年2月22日生まれ。
中村又五郎の二男。
平成11年2月歌舞伎座で初舞台。
南座へは平成22年12月「吉例顔見世興行」『仮名手本忠臣蔵』「七段目」大星力弥で初出演以来3度目。
――お集まりいただいた四人の皆さんは、三人が同い年、右近さんは一つ年上ということになりますね。
種之助: 右近君と米吉君、僕が同級生で、でも米吉君と僕は早生まれだから一級下の隼人君と同年生まれという少し込み入った同い年なんです。播磨屋の僕らと音羽屋の右近君とは一緒に出る機会は多くはないけれど、その中では僕と右近君が一番仲がいいと思っているのですが…。
右 近: うれしいことを言ってくれてありがとう。共演は多くはなかったけれど、学生時代に将来のことを話したことがあったでしょう。歌舞伎をやるのかどうするのかみたいなことを。
種之助: いろいろ考えていたのだと思うけれど、あの頃、右近君に言われたことには少なからず影響を受けていますよ。
右 近: 迷っているのかなと思ったのだけれど、気づいたら、会えば歌舞伎の話しかしなくなっていたから、面白いものだなと感じました。
種之助: その右近君と一緒に花形歌舞伎をやれるのだから、面白い。しかも『弁天娘女男白浪』ですよ。
右 近: 音羽屋の人間にとってはもっとも慣れ親しんでいると言っていいくらいの芝居ですし、個人的にも憧れの芝居でもあります。曾祖父(六世菊五郎)や(七世)梅幸のおじ様のテープを何度となく聞いて、全部暗記しているくらい。
種之助: 逆に僕らは、馴染みが薄い演目なんですが、そんな僕らにとってもすごく魅力的な作品であることは変わりなくて、やりたい役だらけです。そうですよね?
――米吉さん、隼人さんはいかがですか。
米 吉: それはもちろん。普段、ご縁のない『弁天娘女男白浪』に出られるのは、とても楽しみです。「稲瀬川」なんて、やっぱり憧れていましたし。
種之助: 『弁天娘女男白浪』と言えば、やっぱり「勢揃い」がまず浮かんできますよね。ただ、残念ながら今回、米吉君と僕はその夢はかなわないけれど。
米 吉: 僕は宗之助で種之助君は鳶頭だから。でも「浜松屋」で生世話の芝居を存分に勉強できるでしょう?
種之助: そう。それはとっても楽しみだし、鳶頭をやれることはものすごくうれしいです。
播磨屋
平成5年3月8日生まれ。中村歌六の長男。
平成12年7月歌舞伎座で初舞台。
南座へは平成24年3月「秀山祭三月大歌舞伎」『熊谷陣屋』片岡八郎、『船弁慶』伊勢三郎で初出演以来2度目。
萬屋
平成5年11月30日生まれ。中村錦之助の長男。
平成14年2月歌舞伎座で初舞台。
南座へは平成22年6月「坂東玉三郎特別舞踊公演」『重戀雪関扉』良峯少将宗貞で初出演以来、3度目。
隼 人: そうですよ。赤星の右近君と忠信の僕は「浜松屋」には出ない。それで「勢揃い」からいきなり役の雰囲気を出すのは大変だと思います。
種之助: それでも共通する匂いはあると思う。世話物の世界ならではの。
隼 人: 南郷をどなたが演じるかで作品の印象が変わる気がする、って話も出ていたと思うんですが、僕も、それは感じていました。
米 吉: 雰囲気は変わっても、やはり世話物の世界共通の匂いは、絶対にあると思います。
隼 人: そうですね。ところで、米吉君は今回、雲の絶間姫もあるんですよね。
米 吉: 初めてうかがったときは、驚きすぎて頭が真っ白になりました。そもそも歌舞伎十八番自体、『助六』の並び傾城くらいしか出たことがなかったですしね。昨年12月の歌舞伎座で、『鳴神』というお芝居自体を、女方を志してから初めて、というくらい久しぶりに拝見しまして、本当に大変なお役だな、でも楽しいだろうなと思ってはいたのですが…。
右 近: せりふもとても多いですしね。“息も絶間姫”と言うんだそうですよ。
米 吉: そうなんですね。でも、それでいてべらべらしゃべっているように思われないようにやらないといけない、と聞きました。普段はおしゃべりが好きですけど、それとはまったく違いますからね。
種之助: 僕らも歌舞伎十八番に出させていただくことになっていて、『矢の根』で隼人君が文太夫。僕は十郎で、兄(五郎役の歌昇)の兄をさせていただきます。荒事に対峙して和事をやるという、本当に難しいお役です。
隼 人: 柿色の裃を着るのももちろん初めてです。文太夫は雲の絶間とは正反対で、しゃべらないんですよね。しゃべるのも大変だろうけど、しゃべらないのも大変だろうなと思っているところです。それと『流星』では牽牛をさせていただきます。織女の右近君とは四天王や所化では一緒にやっているのだけれど、お役で組むのは初めてだと思います。二枚目のお役なので風情を大事に勤めたいと考えています。
右 近: 僕は「芸の神髄」公演で(平成24年8月国立劇場)、三津五郎のおじ様が坂東流の特集をなさったときに、織女をさせていただいたんです。牽牛をなさった巳之助さんと二人、しっかりお稽古をしてくださって、それがほかの踊りにもとても役に立っている思い出深い作品。今回は巳之助さんが流星になって、牽牛は隼人君になるわけだけれど、僕は同じ役から見守ることができるという楽しみがあります。
米 吉: そして最後が『闇梅百物語』。実はこれ、東京で最後にやったのが平成3(1991)年だから、僕らが生まれる前。四人とも生の舞台は拝見したことがないんですよね。
種之助: 僕はその平成3年の「納涼歌舞伎」の映像を拝見しました。勘三郎のおじさんが読売で、三津五郎のおじさんが傘一本足、父(又五郎)も狸で出ていました。お子さんが見ても楽しい踊りだと思います。
隼 人: 怪談の「百物語」がモチーフになっているから夏の上演が多いのだと思っていたのですが、意外に春も多いみたいですね。
右 近: 追い出しの踊りというと総踊りのものが多いと思うんですけど、これはそれぞれが役を掘り下げることで盛り上がる作品だと思います。だから皆でやれることを腹十二分目にやる!というのが僕のテーマ。よく腹八分目にやれと言われるけれど、僕らが八分目にやったら五分目にも届かないと思うからです!
種之助: でも、こういう作品は一所懸命感が見えても楽しくないのが難しいところ…。
右 近: そうですね。ただ頑張ってる風に見えてはダメだけれど、頑張ってると思われることは、ある意味、大事だと僕は思います。
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