【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
インタビュー・文:矢口由紀子 写真:松竹写真室 構成:歌舞伎美人編集部
『流星』
左より、坂東巳之助の流星、尾上右近の織女、 中村隼人の牽牛
――前回の座談会の最後にお話の出た「ぜひまた」を実現してくださってありがとうございます。
種之助: こちらこそ。今回は楽屋が別々ということもあって、四人そろうことが思ったほどは多くないので、こういう機会はとてもうれしいです。
右 近: 初日が開く前と開いてからの2度、座談会をするなんて滅多にないので、僕もすごく楽しみだったんですが、初日が開いて何に驚いたかと言えば、お客様がいっぱい来てくださっていること。
隼 人: 実感するのに少し時間がかかったくらいでした。夢を見ているみたいです。
米 吉: 僕もそうです。うれしいのに、同時に戸惑いもあって、それも未熟さの表れなのかなと思ったり…。
右 近: たぶん、歌舞伎を観てみようという方がたくさんいらしてくださってるんじゃないかな。狂言立てや上演時間が初めての方でも馴染みやすいですから。でも、とりあえずストレートに喜んでいいんじゃないか、と僕は思っています。
米 吉: 素直に喜んで、パワーにしていかなきゃ、ですよね。
――実際に舞台に立ってみてのお話を、お聞かせいただけますか。午前の部で、右近さんと隼人さんは舞踊の『流星』にご出演です。
隼 人: 三津五郎のおじ様に見ていただけると思っていましたので、より寂しさを痛感するのですが、「芸の真髄」公演で踊られたときに細かくお話になったことを、巳之助さんが教えてくださったんです。必ずしも振りとは同じではない気持ちのこと、風情のこと、うかがえて本当にありがたい、それだけにもっと教えていただきたかったなと…。
右 近: 本当にそうですよね。僕は「芸の真髄」でご一緒できたので、そのときに教えてくださったことを思い出しながらお稽古しました。隼人君とは夫婦の設定ですが、一度やっているのと、一つ年上ということもあってか、積極的に引っ張っていくようにはしています。
隼 人: そうなんです、織女が手をあける振りがけっこう多いし。仲がよすぎて引き離された二人という感じが出るといいなと思って演じています。今後もっと勉強したいお役です。
『鳴神』
尾上松也の鳴神上人、 中村米吉の雲の絶間姫
――米吉さんは『鳴神』の雲の絶間姫にご出演です。
米 吉: もちろんすごく楽しいです。でも怖い。あんなに一人でせりふを話す女方の役はなかなかないですから。余裕がないのもあるでしょうが、お客様に集中していただきたい気持ちが募るからか、楽しい反面、不安も強く感じます。
種之助: 不安?
米 吉: はい。特に鳴神上人と二人になってからは、舞台の芯を割る形で二人きりでしょう、さらに緊張します。教えていただいたとき、必ずしも言われたとおりにやらなくていい、二人の息が合って、いいテンポ、空気ができて初めてお客様を引きこめる作品だから、とおっしゃっていただいたので、二人でやっていくしかありません。
種之助: 僕は『鳴神』を見て女方さんは大変だと思いました。米吉君は絶間姫をこれからたびたび演じていくでしょう。かさねて演じるたびにどうしたらいいのだろうと考えるのだろうね。
隼 人: 立役は大役でも、今させていただくものからだんだん役柄が変わっていきますが、女方は立役より一つの役を掘り下げる期間が圧倒的に長い。
米 吉: 長いのがいいのかもしれないけれど、マイナスの部分もあるかもしれないし…。難しいですね。
『矢の根』
①左より、中村隼人の大薩摩文太夫 、中村歌昇の曽我五郎時致
②左より、中村歌昇の曽我五郎時致、中村種之助の曽我十郎祐成
――『矢の根』では、種之助さんの十郎。隼人さんは文太夫です。
種之助: 歌舞伎十八番ならではの大らかな雰囲気が出るようにと心がけているんですが、『弁天娘女男白浪』で感じているのとはまた別の種類の難しさがあります。せりふは一つ、仕草も顔を少し動かすだけ…。それで状況をわかっていただくのが僕の役割かなと思ってはいるのですが、とても難しい。先輩方は本当にちゃんと十郎に見える。僕は果たして、五郎の夢の中の人物(兄 十郎)だとわかっていただけているだろうかと。
隼 人: 僕なんてさらにですよ。拵えが後見さんとほぼ同じなので、それでいながら、役であること、僕が出てきたことの意味が伝えられているかなと、わからないことが多いです。
右 近: 自分そのままでやっていいんだよとおっしゃる先輩もいらっしゃいますが、そうは言っても、先輩方がなさると絶対にその役に見えるんですよね。
種之助: 本当に簡単なことなんて一つもない、懸命に勤めるしかないことを、つくづく感じています。でも『矢の根』に出していただいて本当によかったと思います。吉右衛門のおじさんが兄(歌昇)に教えていらっしゃるのを間近に見ることもできたのですから。
隼 人: そう! 僕も同じです。花道のくだりなんて実際にやって見せてくださったでしょう。
米 吉: 教えてくださった先輩方には感謝してもしきれないです。皆さん、ご自身のお稽古や公演の間をぬって見てくださって、京都までいらしてくださったりもして。
隼 人: それはきっと僕らへの叱咤激励だけでなく、役、演目への思い入れゆえだと感じました。やるからにはしっかりやってくれないと困るぞ、というお気持ちでいらしたのではないかと。
種之助: 先輩方は本当にすごいですよ。衣裳も鬘(かつら)もつけていないのに、パンと一歩踏み出す、それだけで『矢の根』の五郎になって見せてしまわれるのだから。
右 近: “菊吉(六世菊五郎と初世吉右衛門)”が若い人に教えたとき、「おい、波野(吉右衛門)、教えるより自分たちでやったほうがよっぽどラクだな」と言ったという話がありますよね。
米 吉: 今回だってきっとそうだったと思いますよ。それでも教えてくださるのだからありがたいし、いつか自分たちもそんな風に思えるようになりたいです。
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