【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
――襲名披露が近づいてきた今、どんなお気持ちですか。
いろいろと準備に忙しい毎日ですが、意外と気持ちは穏やかです。ただ、34年間名のってきた三喬に愛着がある一方で、松喬という名跡の大きさをあらためて感じています。僕が入門して間もない頃、うちの師匠が鶴三(かくざ)を襲名して初の独演会があり、ゲスト出演した大師匠の六代目松鶴(しょかく)が「いずれ鶴三に、松喬を継がせてやりたい」と舞台で話すのを聞きましたが、当時はまだその意味をよく理解していませんでした。
――入門して、修業するなかで先代の大きさもわかってきた……?
中学生で落語に興味を持ち、高校のときは年間500席ぐらい演芸場に通って聴きました。多くのすごい師匠がいらっしゃいましたけれど、あるとき、うちの師匠が『道具屋』という与太郎が主人公の噺を、時間をかけずにさっと語って高座を下がったのがとても印象に残ったんです。“これなら苦労せず、普通にできる”と、師匠のところへ行ったんですが、それが大きな間違い。たくさんのお客様を前にして、自然に語るのがどれだけ難しいか、骨身に染みるほど教えられました。
昭和36(1961)年、兵庫県西宮市生まれ。昭和58年4月、六代目笑福亭松喬(当時、鶴三)に入門。同年12月、東大阪の岩田寄席で初高座。弟子に喬若、喬介がいる。出囃子は「米洗い」。
昭和63年ABC落語新人コンクール最優秀新人賞、平成17年度第34回上方お笑い大賞最優秀技能賞、同年第60回文化庁芸術祭優秀賞(大衆演芸部門)、平成19年第1回繁盛亭大賞ほか、受賞多数。平成20年より大阪産業大学客員講師を務める。
――修業時代など、先代の松喬師匠がよくおっしゃっていた言葉があれば聞かせてください。
何を話しても、落語論になる人でした。鮎釣りが好きで、釣れたものを肴に弟子たちと飲みながら、友釣りの話になっても、「友鮎(釣り人が用意するオトリの鮎)が自然なものでなければ、鮎は寄ってこない。そこが笑福亭一門の落語に通じるところで、自然に語らなければお客さんは食いつかん」と。お酒は本当に楽しく、落語には厳しい師匠でした。
――松鶴師匠をはじめ、笑福亭一門にはお酒にまつわるエピソードが多いようですね。
お正月、うちの師匠と一緒に松鶴師匠のお宅へ年始の挨拶に行くと仁鶴、鶴光、福笑、鶴瓶とそろって鍋を囲んでいる。最初はお燗をしますが、すぐに間に合わなくなって冷やでぐいぐい飲むから、もう皆でこんなに(体がぐらぐらに)なって酔っているので、えらいところへ来たなあと思いましたね(笑)。
「お酒を飲むときは、こう…」、同じ飲む仕草でも一門、演者によってさまざま。盃はわかりやすいように大きめの形をつくり、飲み始めるとゴクッ、ゴクッとうまそうな音。「稽古すると、自然に喉が鳴るようになります」(左)。扇子を広げて口から迎えに行き、大杯をあおる(中)。お銚子のラッパ飲みは、客席から見やすいようにやや斜めの姿勢で(右)。
――泥棒が出てくる演目に定評のある三喬師匠ですが、お酒の噺もよくされます。
現実には許されない泥棒も、落語ならどんどん面白くできるのが好きで、ほとんどの盗人噺を語りました。でも、歌舞伎と同じように落語にも“家の芸”がありまして、『一人酒盛』『上燗屋』、大阪松竹座での落語会「三喬三昧」で語らせていただいた『らくだ』など、お酒が重要な役割を果たす演目は笑福亭の十八番なんです。
気をつけているのは、本当に酔うのと落語で演じるのは別ということで、お客様に「えらい酔うてはるなあ」と思わせながらもその役柄に合わせて、せりふをきちんと聞いてもらえるようにしています。
――高座でお酒を飲む仕草をするときは、どんなところがポイントになりますか。
お客様からの見た目が大切なので、たとえば盃は手で実際より大きめの形をつくります。飲んだあとは元の場所へ、一瞬目を向けてから置くようにする。こうしてわかりやすく、共感を得られる仕草をきちんとすることで、落語を見た、聴いた満足感を味わっていただけるんですね。
――襲名披露はここ大阪松竹座がスタートですが、ふだん観客として来られることもありますか。
はい、特に歌舞伎は落語の参考になる部分が多いのでよく見ます。『勧進帳』の弁慶が、延年の舞の前に大杯を飲み干すとき、歌舞伎俳優さんは隆々と両ひじを張りますね。それで豪快さを感じるわけですが、落語では飲むほど、酔うほどにひじを下げてぐずぐずになっていくので、そうしたところも興味深く見ています。弁慶がどこまで酔っているのかは、見る人それぞれの楽しみですね(笑)。
――七代目松喬として、これからどんな落語を目指していかれますか。
まずは古典落語中心に、そして先輩たちからも言われたことですが、無理をせず、自分の歩幅で歩いていければと考えています。僕は、皆さんが大阪へ観光でいらしたときに、(新しい観光スポットの)あべのハルカスや海遊館だけでなく、大阪城にも立ち寄ってほしいと思うんです。特に、徳川時代に築かれたみごとな石垣は大阪の歴史そのもの。これに通じるものが、笑福亭の落語にあるんです。
武骨で野太いけれど、本当の大阪らしさに触れたいと思ったときに聴きたくなる、そんな高座を勤めたいですね。
■日時
2017年10月8日(日)昼の部14:00/夜の部18:00
■場所
大阪松竹座
■出演
三喬 改メ 七代目笑福亭松喬
桂福團治 桂ざこば 桂文枝 桂南光 笑福亭鶴瓶 柳家さん喬 柳亭市馬 ほか(順不同)
■入場料
一等席:7,000円 二等席:5,000円(全席指定、税込)
チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中。詳細はこちら
■襲名披露興行予定
2017年11月4日(土) JR九州ホール(博多)
2017年12月16日(土) 鹿児島市民文化ホール(鹿児島)
2018年1月21日(日) 京都ロームシアター(京都)
2018年1月27日(土) 枚方市市民会館(大阪)
2018年2月12日(月・祝) ウインクあいち(名古屋)
2018年2月26日(月)~3月4日(日) 天満天神繁昌亭(大阪)
2018年3月10日(土) わくわくホリデーホール(北海道)
2018年3月21日(水・祝) 兵庫県立芸術文化センター(兵庫)
2018年3月24日(土) 舞鶴市総合文化会館(京都)
2018年3月31日(土) 安来市総合文化ホール アルテピア(島根)
2018年4月13日(金) 新潟県民会館(新潟)
2018年4月15日(日) 有楽町よみうりホール(東京)
【その他】
2018年2月1日(木)~10日(土)
大阪松竹座『泣いたらアカンで通天閣』
2018年4月~5月中 道頓堀角座「襲名披露公演」
「さつま大海」はじめ、数々のブランドを送り出している鹿児島の芋焼酎蔵「大海酒造」。今回の襲名披露公演を祝し、三喬の口元に運ばれたのは、厳選されたベニオトメを使用した本格焼酎「大海蒼々」と、オリジナルブランドの「海」です。
師匠の感想
「大海蒼々」、こちらはフルーティーという言葉がぴったりですね。青い果実というよりは熟した果実の甘みでおいしい。芋の甘さが効いてるっていうことでしょうね。そんなに量はいただかないんですが、ついつい飲みすぎてしまいそうです。「海」は香りがいい。さらっとした喉ごしなのに甘みも感じられる。甘すぎないからストレートでもいけるけど、何で割ってもおいしそうです。いや、どちらもうまい!
歌舞伎繚乱
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