歌舞伎いろは

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歌舞伎座「六月大歌舞伎」『義経千本桜』
知っているともっと面白くなる!

ようこそ歌舞伎へ 市川染五郎

「らしさ」を出すのが難しい弥助

 ――〈第二部 いがみの権太〉では弥助実は平維盛を勤められます。平家の公達でありながら、すし屋の手代に身をやつしている。武勇に優れた知盛とは対照的な二枚目ですね。

 第二部は特にドラマ性が強い舞台です。そこでの弥助は柔らか味、若い公達の色合いを出す意味でも大事な人物で、華やかさを受け持つ役割があると思います。

 「実は」という役ですが、正体を最初から明らかにしてしまってはいけません。いかにも重そうにすし桶を持つという仕種をします。柔らか味や色気を表現する動きですが、「面白いことをやっているな」と見えてはいけませんし、「一所懸命頑張ってやりました」といってできる役ではありません。「らしさ」を出すのが難しいですね。

楽しみとともにプレッシャーも感じる三役

 ――〈第三部 狐忠信〉では「道行初音旅」の静御前をなさいます。

 忠信は何度か踊っておりますが、静御前は初役です。配役された僕自身が一番びっくりしています。忠信は「静御前に物語をお見せしているのを忘れないように」、また、静御前とは主従なので、「恋人に見えてはいけない」と言われます。そこは十分に注意して勤めてきました。静御前が、この作品のなかでどういう存在であるか、ということを大切にしたいと思います。

歌舞伎座「六月大歌舞伎」

平成28年6月2日(木)~26日(日)

『義経千本桜』

第二部 いがみの権太
「すし屋」

いがみの権太 松本  幸四郎
弥助実は三位中将維盛 市川  染五郎
お里 市川  猿之助
若葉の内侍 市川  高麗蔵
鮓屋弥左衛門 松本  錦 吾
おくら 市川  右之助
梶原平三景時 坂東  彦三郎
小せん 片岡  秀太郎

第三部 狐忠信
「道行初音旅」

佐藤忠信実は源九郎狐 市川  猿之助
逸見藤太 市川  猿 弥
静御前 市川  染五郎

 ――忠信実は源九郎狐は猿之助さんですね。

 第一部では典侍の局(すけのつぼね)と知盛、第二部ではお里と弥助で猿之助さんと共演します。実を言うと、猿之助襲名後は初共演なんです。やっとこの日が来たという思いです。

 それ以前は古典でも新作でも彼とはよく共演していました。彼が「亀治郎の会」で初めて「川連法眼館」の狐忠信を演じたときには、電話で「本邦初演の『四の切』をやるんで、義経をよろしく」と頼まれました。その言い方が彼らしい。本邦初演ということは、世界中でやるんだなと思いました。本興行での彼の初演(平成23年5月明治座)のときには、見届けたいという思いから、僕から義経を志願しました。

 歌舞伎座新開場4年目にして初めての宙乗りになります。猿之助君が歌舞伎座で初めて飛ぶという記念すべきときに、見ることができてよかったなと思います。

 ――立役から女方まで忙しい月になりますね。

 一般的な『千本桜』の三役といえば、知盛、権太、狐忠信です。僕のように知盛、弥助、静御前を一遍に演じるのも珍しいでしょう。とても楽しみですが、同時に緊張感、プレッシャーも感じています。今回は父が勤めている権太も、いずれは演じてみたいです。

相関図

※『義経千本桜』公演全体の登場人物については、歌舞伎座特別チラシをご覧ください。

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