歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」『奥州安達原』
吉右衛門さんのこと、お教えします

ようこそ歌舞伎へ 中村吉右衛門

経験を肥やしにする人が芸を太らせることができる

 ――9月は自作の『再桜遇清水(さいかいざくらみそめのきよみず)』が歌舞伎座で上演されました。監修にまわられ、若手も活躍されました。後輩を指導される際に、どんなことを思われますか。

 いろいろな考え方があるでしょうが、私は、その人の教養というか、経験というか、そういうものが、役者としての人間を膨らませてくれるのではないかと思います。それを自分の肥やしとできる人は芸が太っていくでしょう。

 そういうものは必要ない、そんなことよりも、“かぶいた”ほうがいいんだと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、お客様の多くは、芝居に限らず、優れたものをご覧になり、さまざまなことをご存じです。そういう鑑識眼、審美眼のある方たちが満足できるようなお芝居をお見せしなければならないと考えます。

 私は、歌舞伎は芸術だと思っております。高尚なもの、上等なものをお客様にお見せしたい。それには自分のなかのものを高めることが必要です。そうでないと芝居は高まりません。初代は毎日が勉強だと言っておりましたが、そういう意味ではないかと私は思っております。

あえて一番好きな役をあげるとすると…

 ――吉右衛門さんは数多くの当り役をお持ちですが、中でも一番好きなお役はなんでしょうか。

 『俊寛』が好きです。俊寛の心理は普遍的なものです。生活様式が変わり、畳がなくなろうが、着物で暮らすことがなくなろうが、どんな時代でもお客様にわかっていただける芝居です。歌舞伎をそういう芸術にしたいというのが、九代目團十郎の影響を受けた初代吉右衛門の思いでした。

 『俊寛』はそのきっかけになるような芝居だと思うので、大事にしたいです。生活から江戸文化の痕跡が消えたとしてもおわかりいただけるでしょうし、俊寛の心理は英国、フランス、アメリカと、島のある国の人にはわかっていただけるはずです。素晴らしいことに、それでいて歌舞伎なんですよ。だから私は『俊寛』という芝居を決して粗略にはしたくないと思っております。

中村吉右衛門 播磨屋!

六代目 中村吉右衛門さんをもっと知りたい!

中村吉右衛門(なかむら きちえもん)

生まれ 昭和19年5月22日、東京都生まれ。
家族 実父は初代松本白鸚、祖父初代中村吉右衛門の養子となる。兄は九代目松本幸四郎。
初舞台 昭和23年6月東京劇場『御存俎板長兵衛(ごぞんじまないたちょうべえ)』一子長松で、中村萬之助を名のり初舞台。
襲名 昭和41年10月帝国劇場『金閣寺』此下東吉、『積恋雪関扉(つもるこいゆきのせきのと)』義峯少将宗貞ほかで二代目中村吉右衛門を襲名。
受賞 昭和59年度 日本芸術院賞ほか受賞多数。平成14年 日本芸術院会員、23年重要無形文化財保持者(人間国宝)、29年文化功労者。
この一年の舞台

平成28年

11月 「11月歌舞伎公演」(国立劇場)
『仮名手本忠臣蔵』「七段目」大星由良之助

平成29年

1月 「壽 初春大歌舞伎」(歌舞伎座)
『沼津』呉服屋十兵衛
3月 「平成29年3月歌舞伎公演」(国立劇場)
『伊賀越道中双六』唐木政右衛門
4月 「四月花形歌舞伎」(歌舞伎座)
『傾城反魂香』浮世又平後に土佐又平光起
6月 「六月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『御所桜堀川夜討』武蔵坊弁慶
6月・7月 「松竹大歌舞伎」中央コース(全国公演)
『妹背山婦女庭訓』「三笠山御殿」漁師鱶七実は金輪五郎今国
9月 「秀山祭九月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『極付幡随長兵衛』幡随院長兵衛/『ひらかな盛衰記』「逆櫓」船頭松右衛門実は樋口次郎兼光

ようこそ歌舞伎へ

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