歌舞伎いろは

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歌舞伎座「六月大歌舞伎」『曽我綉俠御所染』
左團次さんのこと、お教えします

ようこそ歌舞伎へ 市川左團次

子役時代は手に負えなかった

 ――ほかの先輩の皆さんの思い出もお聞かせください。

 僕は菊五郎劇団でありながら、よそにも随分出していただきました。(十七世中村)勘三郎のおじさんは親切な方でした。教わったところを完全に覚えるようにして、そこをきっちりとやると、「ああ、欣也(本名)ちゃん、今日のでよかったんだよ」と言ってくださいました。

 『松浦の太鼓』の地方での公演で、おじさんの松浦鎮信で、宝井其角をやらせていただきました。そのとき、「あそこでひとつ、息をうんと吸い込んで次のせりふを言いなさいよ」と教えていただいたんです。次の日に、その場面が来ると、松浦の殿様が中村勘三郎に戻っちゃって、「うん」って僕と一緒に息を吸い込んでくれました。ありがたいと思いました。

 ――(二世)松緑さんはいかがでしたか。

 おじさんは、「今のお前じゃ、多分そこまでしかできないだろうから、それでいいよ。だけど俺の教えたことは本当のことだから、覚えておいてくれよ」という、先を見据えた教え方でした。

 ――六代目(尾上菊五郎)さんの思い出はおありですか。

 初舞台が『寺子屋』(昭和22年5月東京劇場)の菅秀才で、菊五郎のおじさんの松王丸でした。初舞台の僕は、六代目菊五郎という方が、どんなにすごい方か全然知らないわけです。松王丸が幕切れに菅秀才に向かってお辞儀をしたとき、おじさんがお辞儀したんだから、僕もしなくちゃと思って頭を下げました。終演後に楽屋にご挨拶にうかがったら、「おい、坊や、お前のほうが俺よりも偉いんだから、俺に挨拶なんかしちゃダメだよ」と。覚えているのはそれくらいですかね。そのときの園生の前は(六世中村)歌右衛門のお兄さんでした。

 僕は子役時代は手に負えない子で、(七世中村)芝翫のお兄さんにはずいぶんご迷惑をおかけしました。『すし屋』で(昭和23年10月新橋演舞場)、お兄さんの若葉内侍、僕の六代君で手を引かれて花道の七三まで来たときに、客席に知っている人がいたものだから、手を振ってしまったこともありました。

 ――お父様の三世左團次さんは、二枚目や女方を得意とされました。その系統の役をなさろうと思われたことはないですか。

 1回だけ歌右衛門のお兄さんのご指名で、『籠釣瓶』(昭和45年10月歌舞伎座)の栄之丞を勤めましたが、気持ち悪くてだめでしたね。(七世尾上)梅幸のおじさんに「なんでも勉強だから」と言われ、『妹背山』(昭和51年2月歌舞伎座)の求女に出していただいたことがありますが、全然だめでした。二枚目はその2役ぐらいです。やりたいとは思いませんねぇ。

市川左團次 高島屋!

市川左團次さんをもっと知りたい!

市川左團次(いちかわ さだんじ)

生まれ 昭和15年11月12日生まれ。
家族 父は三代目市川左團次。息子は六代目市川男女蔵、孫に七代目市川男寅。
初舞台 昭和22年5月東京劇場『寺子屋』菅秀才で五代目市川男寅を名のり初舞台。
襲名 昭和37年2月歌舞伎座『曽我の石段』八幡三郎ほかで五代目市川男女蔵を襲名。同54年2月歌舞伎座『京人形』左甚五郎、『毛抜』粂寺弾正で四代目市川左團次を襲名。
受賞・受章 平成9年松尾芸能賞優秀賞。同10年眞山青果賞特別賞。同23年旭日双光章。同28年度日本芸術院賞ほか、受賞多数。
この一年の舞台

平成28年

6月 「六月博多座大歌舞伎」 (博多座)
『身替座禅』奥方玉の井/『引窓』濡髪長五郎/『本朝廿四孝』長尾謙信
7月 「七月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『鎌髭』鍛冶屋四郎兵衛実は三保谷四郎
10月 「10月歌舞伎公演 通し狂言 仮名手本忠臣蔵【第一部】」(国立劇場)
『仮名手本忠臣蔵』「大序」「三段目」高師直/「四段目」石堂右馬之丞
11月 「吉例顔見世大歌舞伎」(歌舞伎座)
『加賀鳶』雷五郎次/『元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿』新井勘解由
12月 「12月歌舞伎公演 通し狂言 仮名手本忠臣蔵【第三部】」(国立劇場)
『仮名手本忠臣蔵』「十一段目」桃井若狭之助

平成29年

1月 「壽 初春大歌舞伎」(歌舞伎座)
『松浦の太鼓』宝井其角
2月 「猿若祭二月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『四千両小判梅葉』牢名主松島奥五郎
3月 「三月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『助六由縁江戸桜』髭の意休
4月 「四月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『一谷嫩軍記』白毫弥陀六実は弥平兵衛宗清
5月 「團菊祭五月大歌舞伎」(歌舞伎座)
『魚屋宗五郎』浦戸十左衛門

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