歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

歌舞伎の動きを筋肉で見てみると…

  今回の観劇で為末選手が興味を持たれたのは、歌舞伎の所作を創り上げる独特な動きです。

為末 「面白いなと思ったのは、型を決める時や歩く時に足の指がちょっと上がっていることです」

富樫 「さすが細かいところを…」

為末 「ああいうふうに指を浮かせるとふくらはぎの上にテンションがかかるんですよね。なので独特の重心のかかりかたになっていたのかな…」

 アスリートとは全く違った筋肉の動きに見入りながら芝居を楽しんでくださった為末選手。その中で、陸上と共通する動きを見つけた時は嬉しくなったそうです。

為末 「少し前に“ナンバ走り”という走法(※2)が流行したことがありましたよね。今日観た歌舞伎の動きの中にナンバにとても近い動きがありましたよ」

富樫 「そもそも、ナンバ走りの動きは着物に帯を締めて歩くことから生まれたと言われていますよね。右手と右足、左手と左足を同時に出すというような」

為末 「そうですね。一方の身体側に全部の体重を乗せるスキップ法を私も当時練習しました。普通のスキップというのは重心が右、左とクロスするのですが、ナンバはそうじゃない。歌舞伎の動きの中で、片方の足を折り畳んで、おっとっと…となるような動き、あれは完全に体重を片側だけにかけながら動いていましたね」

 歌舞伎と陸上競技に意外な共通点。為末選手の観方を伺っていると、今まで知らなかった俳優の身体性のすごさ、動きの面白さが浮かび上がってきます。

為末 「立ち姿がすごくきれいだなと感心しました。身体の真ん中に一本芯がすっと通っていますよね。そして、型を変えてもその芯がぶれないのがすごい。例えば、右足と左足をクロスして立って見得をする型がありましたよね。実は両足をクロスさせたままで足をピーンと伸ばすのはすごく難しいんです」

富樫 「そうなんですか!なにげなく観ちゃってますけど」

為末 「股関節がすごく柔らかいのかもしれないですね。あと、骨盤をギュッと寄せることができないとあの型はできないと思います。歌舞伎俳優の筋肉の使い方は、バレエに近いのかもしれませんね」

 伝承された型を自らの身体に受け継ぐ。歌舞伎俳優は日常生活では使わない筋肉を駆使し、様式美を体現しています。そして伝統を受け継ぐために大切なこと…それは「空気」であると為末選手は言います。

(※2)ナンバ走り
江戸時代の飛脚の走り方と言われており「右手と右足、左手と左足を同時に出す」動きを基本とするが、正確な走法は失われている。現代になりスポーツの練習法として注目された。

富樫佳織の感客道

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