歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



   

永遠に残るものには、日常と非日常が同居する

 建築、家具、食事、そして美術…。服部さんが代表を勤めるgrafが目指しているのは暮らしの中にずっと残っていくものを作り出すことです。設立から10年を迎え、引き出しに溜まっている数々の経験を放出したいとおっしゃいます。

服部「ずっと残っていくものには、日常感と非日常感の同居が必要だと思っています。心地よく続く日常があって、そこにアートのような非日常のものが入ってくることで、同じ日常が新しく更新されていくのが大事」

富樫「確かに、アートは私たちの日常から完全に離れたものではないけれど、見る前と後では日常を見る目を確実に変えてくれますよね」

服部「僕がよく例えで言うのは、ヤクザ映画を観に行く前と観に行った後。背中を丸めて映画館に入っていった男の子が、映画を見終わってドアを開け、出て来た瞬間に肩で風を切って歩くような感じ(笑)」

富樫「やけに大股になったりとか(笑)」

服部「非日常の何かを見た瞬間から、新しい日常が始まるんですよ。それがアートの力だと思うんですよね。そしてそれは僕たちが必要としていることなんですよ」

 今日の感劇で服部さんは「長く残るもの」を作る秘訣を、まさに歌舞伎に見い出したと言います。

服部「歌舞伎のストーリーには、日常起こること、目にすることがキーワードとして散らばっています。それは観客の僕らが常日頃経験している、親子の関係だとか、恋人、喜怒哀楽の感情だったり、見慣れた景色だったりする。そこに美しい衣裳を着た俳優がバーンと登場した瞬間から、観客の眼の前で非日常が作られていくんですよね」

 舞台の上に広がる、芝居の中の日常。そこに自分自身が経験している日常を擦り合わせながら観ることによって、閉まっていた引き出しの奥から忘れていた感情が甦る。そして私たちの日常は、再び新鮮な日常へと生まれ変わる。

 劇場で観る世界は決して絵空事ではない。「古典」という響きから私たちはそれを忘れてしまいそうになります。しかし400年前の物語や登場人物は、確かに私たちが今生きる日常に確かに繋がっている。劇場で出会った芝居、感情から新たな毎日を生み出すことができるのはとても幸せなことだと思います。

 必要なのは、想像力と妄想力!初めて歌舞伎をご覧になった服部さんから、まさに新鮮な感客道ひとつ、いただきました。

 

プロフィール

服部滋樹

 1970年大阪府生まれ。5人の仲間とともにデコラティブモードナンバースリーとして活動を開始し、代表となる。1998年にショールーム「graf」をオープン。現在は大阪・中之島の「grafbld.」を拠点とし「暮らしのための構造」をテーマに、家具、空間、照明、グラフィック、プロダクトのデザインからアート、食に至るまで、暮らしに関わるあらゆるものづくりに取り組む。服部さん自身は主に空間デザインに携わるほか、ブランディング、ディレクションなども手掛けている。

 

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

「世界一受けたい授業」「世界ふしぎ発見!」「世界遺産」などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

富樫佳織の感客道

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