歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

サードプレイス ?日常を忘れてくつろげる場所

 石川次郎さんが手がける仕事には常に「豊かな人生をいかに紡いでいくか」のヒントが散りばめられています。例えば雑誌やテレビ番組の旅の特集では、観光地でもない、ごく普通の場所に流れる確かな非日常の見つけ方。プロデュースを手がけた六本木の書店内にあるコーヒー店は、コーヒーを飲みながらくつろいで本を選べるというサービスを打ち出しました。
 自宅でもない、仕事場でもない、でも日常を忘れてくつろげる場所「サードプレイス」、そこに日常を豊かにする鍵があるそうです。

石川 「サードプレイスというのはまだ日本ではなじみのない言葉ですが、職場でもない、自宅でもない心地よい場所があることによって人は自分自身と向き合ったり、気持ちをリセットしたりできると思います。そういう場所があることで、生活にちょっとした豊かさ、余裕が生まれるんです」

富樫 「サードプレイスに適しているのは、どんな場所ですか?」

石川 「海外の知らない町に行くことが自分をリラックスさせるという人もいれば、近所のカフェでくつろぐ時間が心地よいという人もいます。その場所に何を求めているかは人によって違いますよね。ですからサードプレイスは自分自身で見つける空間だし、個人の中でもどんどん変わっていきます。共通するのは、“非日常感覚”があることでしょうか」

富樫 「私にとってのサードプレイスは歌舞伎座かもしれません。観ているのは江戸時代の芝居ですから外での生活とは全く違う“非日常”が流れていて、とても居心地がいい場所なんです。慣れているということもありますが」

石川 「歌舞伎の劇場には長い時間を楽しく過ごすための工夫がたくさんありますよね。幕間に食事をとる場所があったり、売店があったり。ですから芝居を観に来ていると言っても、目的がひとつではないんです。観客それぞれに楽しみ方があるのではないでしょうか。そういう意味ではサードプレイスになり得る場所だと思いました」

 日常を忘れる場所に身をゆだねる心地よさ。そんな場所が、いくつもあっていい。石川次郎さんとの観劇は、劇空間にリラックスして身を委ねながらも、自分自身の記憶を呼び覚ます芝居の刹那を感じるという歌舞伎の重厚な魅力を、改めて認識させてくださいました。

富樫佳織の感客道

プロフィール

石川次郎

1941年生まれ、東京都出身。エディトリアル・ディレクター。大学を卒業後、海外旅行に魅せられ旅行代理店に勤務。67年に平凡出版(現マガジンハウス)に入社し「平凡パンチ」の編集を経て、「POPEYE」、「BRUTUS」などを創刊し編集長を歴任。旅の魅力、芸術、文学の魅力に新しい光を当てるアプローチで、人生を豊かにする発見の方法を読者に投げかけ続ける。1994年から2002年までテレビ朝日の「トゥナイト2」のキャスターを務め、現在もラジオやテレビ番組で活躍中。

 
 
富樫佳織の感客道

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

『世界一受けたい授業』『世界ふしぎ発見!』『世界遺産』などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。東京工芸大学非常勤講師。

富樫佳織の感客道

バックナンバー