歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



   

刷り込まれた 『お勉強感』 を手放して、豊かさを手に入れる

 昨年、新聞などで小学生の間で国語辞典が大ブームになっているという記事を見た方も多いと思います。自分が一度ひいたページに付箋を貼り、積み重ねを実感することで学ぶ楽しさを得るという勉強法の発信地となったのが京都の立命館小学校です。この立命館小学校の副校長を務める陰山英男先生は「百ます計算」や「音読」をくり返し反復することで子供の学力をアップさせる“陰山メソッド”の生みの親です。 陰山先生は歌舞伎座に入ると当たりをゆっくりと見回しました。

陰山 「広いなぁ。思っていたよりずっと広いですね」

 まず拝見したのは『操り三番叟』と『新版歌祭文 野崎村』です。『操り三番叟』は1853年に江戸の河原崎座で初演された演目で、能の儀式舞踊である「三番叟」を元に、糸操りの人形に役者が扮して軽快に踊る演出に歌舞伎のエンターテイメント性が凝縮されています。

陰山 「華やかな衣裳といい、音楽といい、こういう舞台を庶民が楽しんでいた江戸時代は本当に豊かな時代だったのだなと思いますね」

富樫 「観てみると分かりやすくて楽しいエンターテイメントですが、歌舞伎や古典と聞くとどこかで“勉強しなければ分からないのでは”という感覚があるのも事実ですよね」

陰山 「それはね、歴史の勉強が面白くないからなんですよ」

富樫 「え!小学校の先生なのに、そんなにハッキリと」

陰山 「多くの日本人の中には“江戸時代”と聞くと年号や将軍の名前をたくさん暗記した記憶や、農民の一揆がたくさんあったという授業の内容が思い浮かびますよね」

富樫 「確かに。しかも私は将軍の名前や一揆の名前をつながった漢字で覚えるのが苦痛で、そのまま歴史が嫌いになりました」

陰山 「暗記だけの授業では当時の活き活きとした生活は分からないし、なにより学校の勉強では江戸時代は一揆などがたくさん勃発した暗~い時代という教え方が多いんです。ところが調べると実は違っていて、庶民文化が花開き、多様な文化が育った豊かな時代なんですよ」

富樫 「なるほど。古典=歴史の教科書、というイメージを勝手に作り上げているから“お勉強”意識が出てしまうのですね」

陰山 「私は兵庫の古くからある家で育ったので、江戸時代の書物も蔵に残っているのですが、その内容を見ると日本津々浦々の地理から楽器の練習の仕方、流行の遊びといった実に多彩なことが書かれているんです。江戸の庶民は読み書きもできて娯楽もたくさん生み出していたことが分かります」

富樫 「歌舞伎もそのひとつであり、最大の娯楽ですよね」

陰山 「江戸時代のものだから分からない、勉強しなければ…ではなく、眼の前で繰り広げられる芸の何がすごいのかを見つけようとすれば、歌舞伎は古いものでも、難しいものでもないのだと思えるでしょう」

 『古典』と聞いて身構えてしまうのは、自分自身の中にある“お勉強意識”である。自分も含め、歴史と聞くと“勉強”を連想する日本人はある意味、勤勉なのだなぁと感じます。

富樫佳織の感客道

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