歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



本当の歴史を紐解くと、古典はもっと面白くなる

3つ目の演目は『身替座禅』です。狂言の大曲『花子』を題材としており、1919年(明治43年)に東京の市村座で初演された舞踊劇です。大名が奥方に隠れて恋人の花子に会いにでかける一夜の物語が描かれています。大名・山蔭右京の奥方・玉の井は、夫恋しさから執拗に束縛しようとします。その奥方を怖がる大名とのやり取りが笑いを誘います。陰山先生も始終、笑っていらっしゃいました。

陰山 「奥さんを“山の神”と呼んで怖がる感覚は、現代にも通じますよね。私もお芝居を観ながら、こういうことあるなぁと自分に重ねてしまうところがありました」

 陰山先生が『身替座禅』をご覧になって教えてくれたのは、歴史の勉強をする中で私たちが誤解している男女の関係です。

陰山 「先ほど江戸時代は一揆ばかりしている暗い印象を学校の授業で抱いてしまうという話をしましたが、歴史の話というと男性が偉くて女性は三歩下がっているという印象を持っていませんか?」

富樫 「ありますよね。だから『身替座禅』は意外性があって面白いのかと」

陰山 「ところが調べてみると、江戸時代までは大名とはいえ奥方の発言力が強いこともあったようです。女性の権利が制限されるようになったのは、実は明治時代になってからです」

富樫 「意外です!では『身替座禅』のような話はまんざら創作ではないんですね(笑)」

陰山 「戯曲自体は創作かもしれませんが、江戸時代の大名も意外に奥様にやり込められていた人が多いかもしれませんよ(笑)」

富樫 「『野崎村』もそうですが江戸時代の人々の生活を知ることで、歌舞伎の芝居がすごく活き活きとしてきます」

陰山 「そうしたことが本来の意味での学習だと私は思います。学校で習ったことの全てが正しいわけではないということも、逆手に取れば『誤解は本当の理解の始まり』なんです。誤解していたことがそうでないと分かった時、新しい発見が必ずありますよね」

富樫 「陰山先生から江戸の話や歴史の授業の話を聞いていたら、自分の中に刷り込まれていた“歴史は難しい”という誤解が実際に解けてきました」

陰山 「そうすると、いつも見ていたことに新しい目線がつけられます。そうしていくことで古いと思っていたものの中に、自分なりの楽しみを見つけることができるのではないでしょうか」

 歌舞伎に“勉強しなければならない”という先入観を持つのはもったいないことです。ところが入口を入ってからは、自分が気になったことを調べ理解することでもっと楽しむきっかけを作ることができるのではないしょうか。陰山先生との観劇で「古典を観る」大きな楽しみを改めて考えさせられました。

富樫佳織の感客道

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