歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



富樫佳織の感客道  

第一回 茂木健一郎さん

歌舞伎を感じる 身体で味わう感劇道!?

 自分の感覚に身をゆだね、同時に感じたことを客観的に見つめる。言うのは簡単ですが、実はとても難しいこの「道」を一緒に探ってくださる第一回目のゲストは、脳科学者の茂木健一郎さんです。
 著書「脳と仮想」で2005年に小林秀雄賞を受賞。感情や感覚の質感である「クオリア」をキーワードにした脳と心の関係性を探る研究で注目され、テレビや雑誌などメディアへの出演でもすっかりおなじみです。
 心が動く瞬間、感覚が生まれる場所を追求する科学者、茂木健一郎さんは歌舞伎をどのように楽しむのでしょうか?

 3月某日。茂木さんは、ラップトップコンピューターや資料など大量の荷物が入った大きなリュックを背負って歌舞伎座前に現れました。

 聞けば茂木さんは大の歌舞伎好きだそうです。学生時代は毎月劇場に通い、間合いを覚えて掛け声をかけていたほど

茂木「特に通ったのは、3階東の1列目です。でも本当に観たい演目は、命の限りを尽くして1階席で観てましたよ。学生ですから、相当気合いが入ってましたよね」

 3月の歌舞伎座は『義経千本桜』の通し狂言です。

 客席に座ると茂木さんはリュックからまずフリスクを取り出しました。どうやらこれが、茂木健一郎さんの観劇の友!

 客席に座った瞬間、「一秒たりとも見逃したくない」というスイッチが入るのだとお見受けしました。長年歌舞伎を観ているからこその気合いを感じるアイテムです。

 午前11時。
 序幕『鳥居前』の幕が開きました。

 この場面は、兄・源頼朝から謀反の疑いをかけられた義経が都から落ち延びるところを、追って来た静御前と対面するというお話。

 「ここからの旅は女には危険」と静御前を諌める義経と家臣たちの台詞のかけあいが流れるように続いています。

 すると突然、茂木さんの手が芝居に合せて動き始めました。自分も体を動かしながら(といってもまわりの迷惑にならないように)舞台に没頭していく。 これぞ感じる観客の「道」ではないか。隣で観劇する私は人知れずうち震えました。

【解説】
<義経千本桜>
延享4年(1747)に竹田出雲、三好松洛、並木千柳の3人により人形浄瑠璃として書き下ろされた。 源氏を勝利に導いた最大の功労者・源義経は兄頼朝に謀反の疑いをかけられ都から落ち延びてゆく。一方、源平の合戦で全滅した平家軍の武将・知盛、維盛、教経らの首が偽物だと判明。生き残った敵方は復讐の時と義経を追う。戦に勝利しながらも家族に疎まれ悲運の生涯を閉じた義経の物語を軸に、知盛や義経の家臣・忠信、歌舞伎味たっぷりの悪役・権太といった魅力的な人物が華やかに見せ場を競う名作劇。
茂木さんの観劇アイテム
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富樫佳織の感客道

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