歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



富樫佳織の感客道  

第一回 茂木健一郎さん

幕間は素早く楽しく

 30分の幕間。茂木さんは「お昼を食べるなら外でソバを食べよう」と大きなリュックを持って劇場の外へと飛び出しました。目指すは正面玄関左横の歌舞伎そばです。

茂木「学生時代は3階から駆け下りてきて、このソバ屋でよく食べてたんですよ。スピードが大事なんだよね、混んじゃうから」

 ところが…早くて美味いと観客に人気の歌舞伎そばには幕間に入ってわずか5分ですでに行列ができています。すると茂木さんはすかさず、「じゃあ、反対側のカレーにしよう」とズンズン移動。

 “反対側のカレー”とは、正面玄関右側の喫茶店「暫」の定番メニュー。30分という幕間を考えた的確な食事のチョイス、時間の計算、敏速な軌道修正、茂木さん、タダモノではありません。

 21世紀的芝居鑑賞の友、カレーライスを食べながら序幕の感想に花が咲きます。

茂木「今日観て改めて思ったけど、落ち延びていく旅路が危険だからって、愛する人に自分の形見を残して置いていくってすごいことだよね」

富樫「しかも、ついて行くと言い張る静御前を木に縛りつけるって…今だったらDVとも言われかねないですよね。でも女性を木に縛る感じが歌舞伎味な気もします。様式美というか」

 江戸の歌舞伎は日の出から日の入りまで続くゆったりした娯楽。好きな時に入り、予定があれば用を足しに出てまた戻る、とかなり観客の自由度が高いものでした。今も歌舞伎座は幕間の間は出入り自由です。短い時間ですが、この自由な感じ、江戸に通じている気分でワクワクします。

富樫「初めて歌舞伎を観たきっかけは?」

茂木「外国人の友達を案内してきたのが最初です。一幕見席でした。その時観たのがまさに『義経千本桜』の『川連法眼館』だったんです」

富樫「観る前と観た後で、歌舞伎に対する構えは変わりましたか?」

茂木「こんなに気軽に観られるものなのか!って驚きましたよね。やっぱり僕も最初観るまでは勉強が必要かなとか、約束事を知らないと分からないかなとかいろいろ思い込んでいた。しかも観続けると、どんどん新しい発見がある。歌舞伎は気楽に入れるんだけど、奥が深い。そう、間口が広くて奥が深いんです」

歌舞伎そば
「歌舞伎そば」
「暫」のカレーライス
「暫」のカレーライス

富樫佳織の感客道

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