歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



富樫佳織の感客道  

第二回 茂木健一郎さん(後編)

現代の『傾きもの』として生きていきたい

富樫「そういえば茂木さん、掛け声どころか歌舞伎観ながら踊ってましたが?」

茂木「今『応用日本文化』ということを考えていて、日本の文化に新しい文脈を与えていきたいなと。例えば歌舞伎の動きを日常生活に使えないかなと思ってね」

富樫「日常生活の中に歌舞伎の動きですか?」

茂木「そう。古典と言われていても日本の文化である以上、現代の生活になにか応用できると思うんですよ。『古典芸能』という決まったイメージに新しい観方や文脈を創れば、新しいファンが増えるんじゃないかと」

富樫「まさにこの連載の趣旨にぴったり。ぜひ完成させてください」

茂木「まだ見えてないんだけど、なにかあるはず。あ!でもそうだ!あの歌舞伎の色遣いを日常で応用するってどう?黒づくめの服ばっかり着てないで、原色づくしにしてみるとか。すごく元気がでそうじゃない?」

富樫「それは勇気と元気があればすぐに応用できると思いますよ」

<傾きもの(かぶきもの)>
変わった風体をして大道を横行する者を指す言葉。自由奔放なふるまいをする「傾く」が歌舞伎の語源、スピリッツとなった。

茂木「歌舞伎を観るとね、最近の日本人はテンションが低いなって思うんですよ。例えば人と話をする時に『文系ですか?理系ですか?』って聞いたりするでしょ。そういうジャンル分けじゃなくて、どう生きているかを大事にしたい。人に『傾きものか、そうじゃないか?』という質問とかをするようになったら面白い。そこに応用日本文化のヒントがあるかもしれませんね!そうだみんな、傾きもの、やってみましょうか!?明日から!」

現代に生きる私たちが、都心の劇場で江戸の文化に触れるのは「クオリア」を体感することそのものなのだと思いました。
舞台装置を観て、霞がかった桜の吉野山を想い。
『渡海屋』の場面で漁師の風情をたたえる銀平の中に、
滾る平家武将の魂を感じる。
溢れる色、声、どよめき。
そしてそのひとつひとつから、私たちが今ここに生きていることをリアルに感じる。ここに感客としての道を見つけたり!

歌舞伎を観ると元気になる。この体験をより多くの人にぜひ味わってほしい!と今回の感劇を通して私もエネルギーをフル充電しました。
まずは春ですし、原色の色を着て街に出てみようかなと思います。

 次回は書家の紫舟さんです。

 

第一回 茂木健一郎さん

茂木健一郎

脳科学者。ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー。

「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードに、脳と心の関係を学術的に研究している。科学者としての研究にとどまらずオペラやクラシック、落語、現代美術、文学といった芸術全般に造詣が深く、現在幅広い分野での執筆・対談で多忙な日々を送っている。

〈著作〉
「脳と仮想」(新潮社・2005年小林秀雄賞受賞)
「脳と創造性」(新潮社)、「天才論」(朝日新聞社) ほか多数

毎日の活動を散文のように綴るブログ「クオリア日記」も人気。

茂木健一郎さん
 

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

「世界一受けたい授業」「世界ふしぎ発見!」「世界遺産」などを手がける。また中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

富樫佳織さん

富樫佳織の感客道

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