歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



タクシーから南座
【タクシーから南座】
矢倉寿司
【矢倉寿司】
 

はじめての歌舞伎 ?「動き」に表現者の魂を感じる?

 今回、南座はなんと桟敷席です。
 「座席の横に下駄箱があるんですね。小さなお家みたい。しかも足元床暖入ってますね!」と紫舟さん、客席に座るなりとてもワクワクしたご様子。

 3月の南座は江戸時代の脚本を新たに補綴した「霧太郎天狗酒?」。111年ぶりの復活上演です。

 幕が開くと、紫舟さんの視線は舞台へ真直ぐに注がれました。俳優が登場する度、筋書に何やら書き込んで役とストーリーを追いながら集中しています。自分なりにメモをとりながら歌舞伎を観る、というのはとても新鮮です。

 劇場の雰囲気を味わっていただくため、お昼はあえて座席でお弁当にしました。南座向って左隣の「矢倉寿し」で買い求めたお寿司をつまみながら感想を伺います。

富樫「初めて歌舞伎を観て、いかがですか?」

紫舟「俳優さんの動きが美しく飽きなかったです。初めてだから台詞を全部理解するのは無理かなと思って、視覚的に追ってみたんですよ。小さい動きのひとつにも、細かい計算がありますね。すごく面白い」

富樫「計算されていると思ったのは、例えばどんな動きですか?」

紫舟「立ち姿だけでも、すごく計算されている。自然に見えるけど、ちょっと膝を曲げていたり、手先の動きが重心の移動に合っていたり、身体を全体的に美しく見せる方法を考え尽くしている気がします」

富樫「動きやカタチで観る、というのは紫舟さんが書家だからでしょうか?書は言葉が持つ性質や感覚を『文字』に凝縮する芸術ですが、歌舞伎に通じるものを感じましたか?」

紫舟「『見方を知らないと理解できない』と思われるところがまず似てますよね。でも歌舞伎の約束事を知らなくても、動きで物語や役柄が分かるでしょ。そこに表現者の、観てもらうための努力が注がれているなと感じました。書も、たとえ知識がなくても見ただけで本質が分かる、そういう作品を仕上げる努力が必要だと私は考えているんです」

富樫「紫舟さんの座右の銘は『テキトー』ということですが、その意味を『物事の適切な状態、本質』だとおっしゃっていますよね。それって歌舞伎と通じるなと思ったんです。つじつまが合っていない場面もあって『テキトー』に見えるけど、芯や伝えたいことは伝わる」

紫舟「『テキトー』というのは、そうなんですよね。私は文字に感情や表情をつけたい、情報伝達の手段である文字に意思を吹き込もうと思うんです。そのために自分自身がいつも本質をとらえていたいなと思います」

 予備知識なく見た人にこそ想いが伝わる作品を創りたい、とおっしゃる紫舟さん。
 動きから物語を掘り起こすという着目点は、普段から無駄なものをそぎ落とし物事の核を見つめるその眼から生まれていると思いました。

富樫佳織の感客道

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