歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



   

歌舞伎とロック

 今回歌舞伎を観て“言葉にはならない気持ち”を受け取った箭内さん。その劇場で、新しい発見がありました。

箭内「歌舞伎って『地味』とか『堅い』とか自分で勝手に作ってるイメージが強いもののトップクラスにくると思うんですけど。今日観て、実は観客も結構めちゃくちゃな人たちなんじゃないかと思いましたね」

富樫「(笑)どんなところが?」

箭内「だって河竹黙阿弥のアナーキーな芝居とか、ギリギリを超えるところを毎日見せる役者さんを観て“面白い”って思ってるわけでしょ。歳とったら人間、安心感だけで生きていくわけじゃないんだ。おじさんとかおばさんもみんなパンクなんだっていうのを今日すごく感じたんですよね」

富樫「今は“古典芸能”っていうイメージが強いけど、江戸時代はかなりロックな見せ物だったはずですからね」

箭内「その“やばい”もの、“行っちゃいけない”っていう感覚がいいんでしょうね」

富樫「そこに行ったら不良になる!みたいな」

箭内「そう。奥さんが行きたいって言ったら旦那さんは不安になるような。(笑)ストーリーもそうだけど、ああいう本気なものを観てしまうと、主婦が旦那さんが本気じゃないことにイラ立ちだすというか」(一同笑)

富樫「生きるか死ぬかをですからね」

箭内「もしかしたら歌舞伎って、ものすごく危険なものを観に行ってるんだと思いますよね。そこがすごくいいなって思う。」

富樫「河竹黙阿弥は盗賊や泥棒を主人公にした名作をたくさん書いているんですよ。でも冷静に考えたら、その物語を江戸の人が観てカッコイイ!って思ってたのもすごいですよね」

箭内「人には“人と同じことをやる気持ちよさ”っていうのもあるじゃないですか。泥棒が流行ってるから、泥棒に憧れるっていうのはそっちだと思うんですよ。だけど人と違うことをやる気持ちよさもあって、それが半分半分で成立したときに生まれたものってすごいパワーを持つんですよ」

富樫「二面性が強烈なものを作るんですね」

箭内「河竹黙阿弥さんはその部分が巧みだったんじゃないですかね。だから観る人をドキドキさせるし、カタルシスを与えるし、かっこいい」

 芝居の中に生き続ける人間の生命感、リアルタイムや速報性。

 歌舞伎は今振り返ると確かに芸術だけれど、生まれた瞬間は、その時代と同じ早さで並走しているものだったはず。移り変わる時代の中で常に化学変化をしなければならない使命感が、成り立ちの上で当たり前だったのではないか。芝居を見終えた箭内さんはそう語って下さいました。

 私たち観客も、時代とそして作品と化学反応しながら「生きている」と実感する。その感覚が歌舞伎を観るということなのかもしれない。

 その感覚をどう楽しむべきなのか。次回も箭内さんと感劇道を探ります!

 

プロフィール

箭内道彦

1964年福島県生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、博報堂に入社。2003年に独立し「風とロック」を設立。2005年4月『月刊風とロック』(定価0円)創刊。次々と話題の広告を手がける傍ら、裏原宿でファッションブランドを展開し、「風とロックFES」を毎年開催するなど、様々な分野に活動の場を広げている。主な仕事に、タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」、資生堂「uno」、森永製菓「ハイチュウ」、フジテレビジョン「きっかけは、フジテレビ」、富士フイルム「PHOTO IS」などがある。

箭内道彦
 

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

「世界一受けたい授業」「世界ふしぎ発見!」「世界遺産」などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

富樫佳織

富樫佳織の感客道

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