歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。




助六由縁江戸桜
The Tsubouchi Memorial Museum,Waseda University, All Rights Reserved.
曽我十郎が外郎売りに姿を変えたという設定の『外郎売り』は、売り立ての長い台詞が俳優の見せ所。胃や心臓、肺に効くという宣伝文句は現在の広告を思わせる。江戸歌舞伎のヒーローだった助六はそのファッションに「傾き者」のエッセンスを感じさせる。
 

歌舞伎とロックⅡ?破壊から生まれる力

 箭内道彦さんに感客となっていただいたのは、歌舞伎と箭内さんに共通のキーワードがあると思ったからです。それが「傾く」と「アンチ」。

 ご存知の通り歌舞伎の発生には、エッジの効いた服装で往来を歩いた「傾き者」と言われる人たちが大きな影響を与えました。毎回人々を驚かせる作品を世に送り出す箭内さんは、現代の「傾き者」と言えるのではないかと思ったのです。

箭内「『三人吉三』も、クリエイターとしての河竹(黙阿弥)さんも…江戸時代ってメチャクチャ。だったら現代を生きる僕らも、もっと自分たちを疑ったり壊したりみたいなことが必要なんだなって感じますね。歌舞伎を観ちゃったら、今の世の中、相当普通だなって思ってしまいました」

富樫「歌舞伎の語源、ご存知ですか?『傾き者』って言われる人たちがいたんですけど」

箭内「その血を受け継いでますね、俺(一同笑)。変なものを着たり、変なものを身につけた時の感覚って、気持ちがいいし、追いつめられるし、自分自身がドキドキするんですよ」

富樫「相当なパワーがないと着られないでしょ?」

箭内「それは助走して離陸すればいいんであって、まずは黒い服をやめて薄いピンクとか黄色でいいんです。そのうち彩度をどんどん上げて原色に近くしていくと、そのパワーに自分が似合っていくようになるんです」

富樫「慣れるんじゃなくて、なっちゃうんだ」

箭内「派手なものを身につけているとそのうち暗示にかかって、パワーのある人を演じているうちに、演じているのかそうじゃないのか分からなくなって板についていく。それは、おすすめしたいですね」

富樫「箭内さんのライフスタイルやクリエイティブの姿勢に『アンチ主義』がありますよね。歌舞伎にも時の政局や流行への『アンチ』から生まれた作品がたくさんあります」

箭内「アンチは結局、ネタ切れしないんですよね。憧れや怒りの対象って、いつまでたっても目の前に現れるから。“敵討ち”って僕は呼んでるんですけど(笑)、アンチさせてもらえるムカつくものとか、古いものとか、強いものの存在があるから創り続けることがあるんですよ」

富樫「今日、芝居を観て泣いたじゃないですか。『傾く』とか『アンチ』の持つ力って、そのワケも分からず泣いちゃうパワーに近いですよね」

箭内「パワーは自分でつけていけばいいって言いましたけど、歌舞伎を観ることもそうじゃないですかね。観ているうちに自分のパワーを培ってやったり、養ってたり、成長していく。でもあんまりちょくちょく観て、ちょくちょく泣いてたら、自分のことどうすんの?ってのもありますけど(一同笑)」

富樫佳織の感客道

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