歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



渋谷と歌舞伎

 シアターコクーンのロビーは、夏祭りのような賑やかさ。お菓子や飲み物、小物の店が並んでいます。箭内さんの目に、あるものが止まりました。

 「ちょっと買物していいですか?」

 着物の生地をモチーフにしたTシャツなどを売るショップで、箭内さんは3枚お買い上げ。

 「慣れない空間、アウェイに来たので、ついつい自分の世界に近いものを見つけて吸い寄せられてしまいました」

 コクーン歌舞伎が幕を開けた当初は、渋谷で歌舞伎を上演する“違和感”も話題となりました。歌舞伎にとって渋谷も最初はまさにアウェイでした。

箭内「渋谷で観るのって、心の準備のできてなさがすごくいいんじゃないですかね。それで突然歌舞伎の世界に惹き込まれるおもしろさはあると思う。東銀座で歌舞伎を観るよりショックは大きいですよね」

富樫「歌舞伎観た後も、すっかり江戸の気分になって劇場出たら若者が泥酔して吐いてるの見ちゃったり(笑)」

箭内「リアルタイムっていうのを感じざるを得ない街じゃないですか、渋谷って。それは歌舞伎そのものと一緒なんですよね」

 歌舞伎がリアルタイム性を持つことの象徴のひとつに、作品に残る商品タイアップの台詞や、今でいうCMのような演出があります。江戸時代における歌舞伎の媒体効果を、気鋭の広告クリエイターはどう見るのでしょうか?

箭内「僕はすごい効果あると思います。すでに今、さっきの芝居に出てきた軍鶏とネギの鍋とか食べたくてしょうがなくなってるし(笑)」

富樫「たまに商品の説明になってるような台詞もあって、すごいと思う」

箭内「歌舞伎の芝居小屋っていう空間が、広告っていうもののあざとさに負けない場所なんでしょうね。広告よりもっとアクが強くて、大げさな場所だから包容力があるんだと思う」

富樫「現代だと、作品の中にタイアップや宣伝を感じた瞬間に冷めてしまう感覚がありますが・・・」

箭内「作者や役者、観客も、広告が入ることに対する大らかさとか、“なんかそれありじゃん”って面白がってやってる感じがありますよね。最近はさりげなく入れるっていうのが多い。そのさりげなさが僕は嫌いですが」

富樫「どうしてですか?」

箭内「さりげないと広告にならないんですよ。気づかない人もいるし。知らず知らず入りこんでくるというスタイルに情報操作の怖さも感じる。でも歌舞伎の場合は面白がって取り入れたことで同時代性を加速させたり、お客さんとの距離を絶妙にしていったんじゃないかなって思いますね」

富樫「江戸時代、すごい」

箭内「江戸時代、すごいですよ」

 

富樫佳織の感客道

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