歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



古典芸能は“見立て”で深まる

 広い劇空間の中で俳優、音楽、華麗な道具が競演するのが歌舞伎の醍醐味。
 さらに自分なりの見方を見つければ楽しみは広がります。

いとう「ジャズの話をしたけど、他のジャンルの知識と歌舞伎を重ねて解釈するのも面白いんじゃないかって思ってる。アバンギャルドの芸術が好きだっていう人ならその観点から、歌謡曲が好きなら歌謡曲の典型的なパターンを知り尽くして歌舞伎を観るとか。見つければいいんです。自分の好きなところを」

富樫「歌舞伎そのものに、アバンギャルド芸術や歌謡曲が持つエッセンスも詰まってる。だから自由なんでしょうね」

いとう「俺はロックンロールショーだと思ってるんですよ、歌舞伎って」

富樫「特に荒事はそうですね。衣裳は派手だし、ノリノリな感じ」

いとう「ロックンロールショーを楽しむ時に勉強なんてしないでしょ。カッコいいなーって思って観ていればいいだけで。そのうち勉強したくなったら調べると、ブルースがあったり、和事ってアコースティックライブみたいだなって感じたり。そんな見方を発見すればいいと思う」

 異ジャンルによる歌舞伎の見立ては、さらに広がります。

いとう「僕さ、歌舞伎とラテンアメリカ文学ってすごく似ていると思うんですよ。特に今日観た河竹黙阿弥の白浪物(※7)なんてそうだよね。ラテンアメリカ文学も白浪物も、主人公はすごいチンケなワルなわけ。だけどそのチンケなとこにすごくリアリズムがあるんだよ」

富樫「しかも観ているうちに不思議とチンケを超えて、引き込まれる」

いとう「例えば主人公がバッタリと見得切るところに神話っぽさがある。黙阿弥もラテンアメリカ文学も、市井のリアルな登場人物を神話化して描いていると思うんだよ。そこに江戸の人は熱狂したんじゃないかな。黙阿弥はガルシア=マルケス(※8)みたいな存在だったんだよね、きっと」

富樫「白浪物って、俗っぽいし、分かりやすいカッコよさがありますよね」

いとう「今だったらタランティーノ(※9)がああいう脚本書くよね。登場人物全員カッコいいんだけど、みんなワル、みたいなの(笑)。しかも俗っぽい。だって踊らせちゃってるんだよ、トラボルタを(笑)。形式主義でもあるよね」

富樫「タランティーノは、映像で見得切ってる感じがします」

いとう「いつの時代も、歌舞伎のような表現をする人はいるんだよね」

 いとうせいこうさんというフィルターを通すと、歌舞伎は音楽や文学、そして映画といった世界中の表現につながる扉。異ジャンルを重ね合わせる面白さにワクワクします。重要なのは知識を詰め込むことではない、自分自身の中に求めよ!それが“感客の道”なのです。

 
豊原国周画「白浪五人男 日本駄右衛門 坂東彦三郎」・国立国会図書館蔵(禁無断転載)
豊原国周画「白浪五人男 弁天小僧 尾上菊五郎」・国立国会図書館蔵(禁無断転載)
白浪物(※7)
河竹黙阿弥が得意とした、盗賊を主人公とする作品。『白浪五人男』『三人吉三』など。
ガブリエル・ガルシア=マルケス(※8)
コロンビアの作家・小説家。82年にノーベル文学賞受賞。代表作に退役軍人の祖父をモデルにしたとされる「百年の孤独」や実際の事件をモチーフにした「予告された殺人の記録」など。
タランティーノ(※9)
映画監督クエンティン・タランティーノ。代表作に「パルプフィクション」「キル・ビル」など。

富樫佳織の感客道

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