歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



   

本日、歌舞伎デビューです

 服部滋樹さんが代表を勤める「graf」は、デザイナー、家具職人、大工、アーティスト、シェフといった様々な技を持つプロフェッショナルが集まるクリエイティブユニットです。

 オリジナル家具のデザイン・製作を始め、建築を含む空間やプロダクト、グラフィックのデザインから食の提案まで「暮らし」に関わるあらゆることを手がけるgrafの活動は国内だけではなく、そして海外からも注目されています。

 待ち合わせたのは歌舞伎座の正面。服部さんは劇場向って左側の絵看板の前にいらっしゃいました。

服部「今日、これを観るんですよね。テンションあがりますね!」

 大阪の能楽堂のグッズをgrafが手掛けたことなどをきっかけに、能をよくご覧になるという服部さん。今回は正真正銘の「歌舞伎デビュー」です!劇場に入ると、吹き抜けの華やかな内装に服部さんの目が輝きました。

服部「写真撮っていいんですか?」

『赤い陣羽織』(※1)
昭和20年に雑誌「別冊文芸春秋」に発表された木下順二作の戯曲。
スペインの作家アラルコンの『三角帽子』を翻案した作品で、知事が被る三角帽子と緋ラシャの外套をお代官の着る赤い陣羽織に置き換えている。民衆が権力者をひっくり返すという日本の民話では珍しい主題をコミカルに描いた作品。

photo:yasunori shimomura

 

 愛用のデジタルカメラで開演前の1階席を歩きながら様々な角度で写真を撮ります。芝居はまず、木下順二の『赤い陣羽織』(※1)です。日々穏やかに暮らすおやじと女房の生活が活き活きと描かれたこの芝居は、スペインの作家が書いた『三角帽子』を翻案した作品。幕切れ、服部さんの第一声は…

服部「僕も作りたいです!作れるんですか?歌舞伎は?」

富樫「脚本を?それとも大道具とか空間をってこと?」

服部「全部!(笑)初めて観ましたけど、歌舞伎は物語も俳優も大道具も照明も、全てがこうあるべく計算されてひとつの世界を作っているんですね。すごい!こんな世界を作ってみたいと思いました」

 grafは一昨年、神戸の老舗洋菓子店「モロゾフ」の新ブランドの立ち上げを手がけました。このプロジェクトでは、店舗の設計、デザイン、店員さんの制服、お菓子の器、パッケージまでトータルで作り出しました。ちょっと無理矢理歌舞伎に結びつけると、歌舞伎の劇場に俳優、大道具や衣裳、床山がいて、全てがそこから作り出されるのとよく似ています。

富樫「服部さんらしい(笑)。grafの活動も“こういう業種”と限定するのではなく、美術展だったり、お店だったり、家だったり、ひとつの世界を創り上げていくスタイルですよね?」

服部「僕たちが“世界を作る”ことにこだわるのは、それが一番無駄のない作り方だからなんですよ」

富樫「無駄がないとは?」

服部「ひとつの空間に、デザイナーや大工、シェフなど様々な職人がいて、家具とか料理とか美術とかいろいろなコンテンツが、それぞれ走っている。で、必要な時に融合したり、技術を重ねられるとアイデアが形になるのが早いんです。その中から新しい世界が生まれるんです」

 やはり歌舞伎の劇場によく似ていると思いました。俳優のアイデアや想いを形にするため、プロフェッショナルが同時に走りながらものを生み出すシステム。新たな流行を猛スピードで発信していた江戸の劇場は、この「無駄のなさ」によって支えられていたのではないか。遠い時代のクラフトマンシップに想いを馳せました。

富樫佳織の感客道

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