歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



(※1)『隅田川続俤 法界坊』 天明4年(1784年)大坂 で初演。「鯉魚の一軸」という名宝の紛失による御家再興の物語。色欲、物欲、生への執着に支配されたアナーキーな僧侶・法界坊のキャラクターによって喜劇性の強い傑作となった。

 

歌舞伎、およそ20年ぶりです

 ダンカンさんは今回、歌舞伎を観るのが2度目だそうです。

富樫 「この前はいつご覧になったんですか?」

ダンカン 「学生の頃ですよ」

富樫 「ということは…失礼ですが相当前ですよね、20年以上?!」

ダンカン 「そうなりますね。当時は『歌舞伎を一度は観ておかなきゃだめだろう』と思って劇場に行きました。久しぶりなので、自分でもどんな感想を持つのか楽しみです」

 観劇したのは平成中村座の『隅田川続俤 法界坊』(※1)です。強欲で女が大好きな破戒坊主。前半はコミカルな展開で芝居小屋を笑いの渦に巻き込みますが、中盤では一転、顔色も変えず残忍に人を殺す“狂気の人”となります。 ダンカンさんはその法界坊をずっと見つめていました。

ダンカン 「僕の持っていた歌舞伎のイメージをいい意味で飛び出した芝居でした。例えば、時代言葉でゆっくり話すお姫様に『もっと早く話せ!』と言うところ。そうそう!そうなんだよねと思わず頷いてしまう反面、歌舞伎役者がこれを言うのもありなんだ!と驚かされました」

富樫 「歌舞伎=古典と思って臨むと、新しさや挑戦に驚かされますよね」

ダンカン 「僕はどうしても創り手として観てしまうところがあるのですが、今日はものすごく刺激を受けました。本当、観てよかった!」

富樫 「どのような刺激を?」

ダンカン 「まず芝居そのものが新鮮というのももちろん、演じている役者さん、勘三郎さんの生きざまにとても共感しました。歌舞伎は古典芸能として確立しているわけですから、それをそのまま丁寧に演じていくというやり方もありますけど、そこに新たな命を与えようとするパワーと情熱に心を揺さぶられるというかね…」

富樫 「分かります。最後、泣けちゃったんですけど、それは筋に泣いたというよりも、芸歴を20年も30年も積み重ねてきた方々がずっと挑戦し続けているというところに衝撃を受けました」

ダンカン 「しかも歌舞伎は芝居のベースがとてもしっかりしていますよね。だから前半のコメディの部分も全部成立しているんですよ。さらに高品質の踊りがあって、指先まで神経をゆき届かせている役者さんの姿も素晴らしいし、いわば最高級のディナーですよね」

富樫 「庶民の娯楽からスタートした芸能ですが、本当に洗練されていますよね」

ダンカン 「でも僕は、こういう高品質なものを観るべきだと思うんです。特に創り手は。確かに100円のハンバーガーを食べていても人は生きていけるけど、たまには高いものを食べたほうがいいよと。本物とはどういうものかを感じていないと寂しい人生になっちゃうよ、と。でも金持ちになったからって高いものばっかり食べているやつは一番ダメですけどね」

富樫 (笑)

富樫佳織の感客道

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