歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



(※1)『祝初春式三番叟』
『式三番叟』は歌舞伎舞踊の“三番叟物”の中で最も能の『翁』に近い作品で、江戸歌舞伎では顔見世の初日から三日の間、正月元旦に行なわれる仕初め式(しぞめしき)、劇場のこけら落とし興行など、能に倣って特別な興行の際に上演された演目。

 

トップビジネスウーマン、歌舞伎に出会う


 和田さんと待ち合わせをした日は、今年初めて東京に雪が降るという天気予報 が前夜からニュースで報じられていました。どんよりとした曇り空、強い風が吹き付ける歌舞伎座前に現れたのは着物姿の可憐な女性でした。

富樫 「フォーチュンが世界のパワフルウーマン50傑に選んだ方なので、バリバリのワーキングウーマンだと想像していました…」

和田 「仕事の時はそうですよ(笑)。でも歌舞伎を観に来る時は着物を着るようにしているんです。自分が楽しむために」

 9年前に関西から東京に仕事と住まいを移した和田さんは、5年ほど前から歌舞伎を観始め、すでに100回近く劇場に足を運んでいると言います。年間にして20本以上。世界を舞台に活躍するビジネスウーマンが古典芸能に魅せられたのはなぜなのでしょうか。

和田 「まずは『何か東京らしい体験をしてみたい』と思ったのがきっかけです。私の中で東京らしいものとしてピン!と来たのが、歌舞伎座だったんです」

富樫 「外国人みたい(笑)。それですぐにご覧になったんですか?」

和田 「最初はチケットの買い方も分かりませんでしたから、まず劇場に来て切符売り場に並んで、どの席が見やすいのか聞くところから始まりました」

 拝見したのは歌舞伎座の壽初春大歌舞伎です。お着物の和田さんは、お弁当、オペラグラスを持参。お正月らしい華やかな演目『祝初春式三番叟(いわうはるしきさんばそう)』(※1)では、オペラグラスをのぞきながら小さな声で「すごい!」と何度も感嘆していらっしゃいました。

富樫 「お芝居を観ながら何度もすごい!とおっしゃっていましたね」

和田 「前の席でしたけど、衣裳をオペラグラスで観たらとても豪華でつい(笑)。歌舞伎はストーリーもさることながら、衣裳の豪華さや、みんなが知っているカッコいい俳優さんが眼の前で見られるのがとても贅沢ですよね」

富樫 「和田さんは初めて歌舞伎をご覧になって、すぐにハマったんですか?」

和田 「いえ。やはり最初は台詞が全部聞き取れないのが気になったり、ストーリーを追うだけで精一杯でした。面白さが分かったのは数十回観たくらいからです」

富樫 「どこでピンときたのですか?」

和田 「歌舞伎は回数を観ていると、同じ演目を違う役者さんで上演しますよね。私の場合は『寺子屋』を何度目かに観た時、演じる人によって芝居は違うし、その日、その瞬間によっても違うんだと気づいたのが大きなきっかけです。それからは毎回発見です」

 和田さんの楽しみは、お芝居を観るだけにとどまりません。

和田 「歌舞伎を観たことで日本独特の着物のデザインにも惹かれるようになって、劇場に来るために着付けも勉強しました。着られるようになると着物と帯の合わせ方がとても楽しくなったし、私、劇場にはお弁当を持ってくるので、それも楽しいです」

富樫 「楽しみがどんどん広がっているんですね。うらやましい」

和田 「ずっと英語で仕事をして海外に身を置く時間も長かったので、“日本人ごっこ”と言っているんです(笑)」

富樫佳織の感客道

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