歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

『キル・ビル』秘話?外国人が作り出すニッポン感

 錦秋特別公演の歌舞伎舞踊は『二人椀久』。舞踊の舞台は大坂。新町の傾城松山に入れあげた豪商の椀久は、豪遊の果てに座敷牢に入れられ狂ってしまいます。松山を恋い慕う椀久が座敷牢で見る幻想が舞踊で表現されるのですが… ?

七之助 「初役で松山を勤めさせていただきます。この舞踊の筋は、なんといっても椀久のこころの中ですから、幻想的な雰囲気をどれだけ感じていただけるかが課題ですね」

富樫 「錦秋特別公演の演目は勘太郎さんと話し合って決めているのですか?」

七之助 「そうです。これまでは『棒しばり』や『団子売り』『蝶の道行』と、分りやすくて楽しめる舞踊をやってきました。今回は英哲さんの太鼓と竹童さんの三味線と一緒なので、こういうしっとりと雰囲気で感じていただく演目ができるなと思いまして」

富樫 「物狂いというのは歌舞伎では代表的なジャンルですね」

七之助 「そうですね。『保名』ですとか、歌舞伎を観たことのない方でも『江島生島』は聞いたことがあるかもしれません。正気を失ってしまったからこそ現れる人間本来のこころの清らかさや、哀しさが表現されなければなりません。どれだけ美しく見せられるかだと思います」

富樫 「初めてご覧になる方はどのようなところを観たらよいでしょう?」

七之助 「松山は傾城ですから衣裳や女方としての繊細な動きを観てくださるだけでも美しくて楽しいのではないでしょうか。恋しい椀久と通わせる、切ないけれどまっすぐなこころをお伝えできたらいいですね。事前に筋書でストーリーを読んでいただけると、より深い情感が楽しめると思います」

富樫 「勘太郎さんと踊るのは、格別ですか?」

七之助 「お互い、ここをもっとこうしたらと忌憚なく意見が言い合えるのがいいですね。あとは踊り慣れているというのもあります」

富樫 「『三人連獅子』をはじめ、お父様、お兄様と踊っている時の息の合いかたには見事なものがありますね」

七之助 「舞踊ですから『三人連獅子』だと毛振りのタイミングですとか合せているところももちろんありますが、そうではないところ、例えばトンと足をつくところで気づいたら父も兄も同じところで踏んでいるというようなことはありますね。なんで全部合ってるんだ、怖い!(笑)みたいな」

富樫 「(笑)やっぱり気というか空気そのものの感じ方が同じなのでしょうか」

七之助 「家族ですから、身に付いている空気があるのかもしれませんね。そういう意味では舞踊も邦楽も小さい頃に経験したものは身につきやすいといいますか、日本人にとってDNAに刻まれているようなものではないでしょうか」

 七之助さんは9月の平成中村座名古屋公演で鼓を打つ場面がありました。稽古で鼓を打ったのはなんと小学校低学年以来。それでもちゃんと音が出たのには驚いたそうです。身体に芸をしみ込ませること。それは今後の挑戦にもつながります。

富樫佳織の感客道

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