歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

歌舞伎の楽しみ方 ― とにかく驚いて、感じてみる

富樫 「歌舞伎の楽しみ方について伺いたいのですが、まず七之助さんが『歌舞伎ってすごい!』と最初に自覚したのはいつ頃ですか?」

七之助 「2歳とか、3歳とか…とにかく言葉も話せないうちだと思います。白塗りをした役者が舞台でスポットライトを浴びていて、それにお客様が大拍手をして盛り上がるのを観て、とにかく『すごい!』と思ったんです。すぐに真似をしました」

富樫 「やはりチャンバラですか?」

七之助 「立廻りはもちろん、もっと演目の象徴的な場面を“演じているつもり”というのが多かったですね(笑)。例えば兄と立廻りをするにも、シャワーの下に立って水を出したり」

富樫 「本水!」

七之助 「あと僕の場合は『女殺油地獄』。両親が帰ってきたらリビングでバケツをかぶって一生懸命すべっていたそうです(笑)。もちろんバケツに水を入れてそこらじゅうに流したので水浸しです。兄は口紅で血糊を描いて立廻りをして、母の口紅を台無しにしたり…」

富樫 「役者だけあって真似も本格的なんですね…」

七之助 「生活の中に歌舞伎が入っていますからね。それもDNAかもしれません。そしてなにより、子供に『真似したい!』と思わせる諸先輩の芝居がすごいのだと思います。ですから僕たちもそうならなければ。漫画やゲームのほうが面白いと思われないように精進したいです」

富樫 「これから歌舞伎を観る方はどんなふうに楽しめばいいでしょう」

七之助 「まずは見た目の美しさを楽しんでいただいたらいいのではないでしょうか。僕自身、映画『ラストサムライ』の撮影でしばらく歌舞伎を離れていた時に、改めて舞台を観て圧倒されたのは色彩や衣裳の美しさでした。『紅葉狩』を2階の一番後ろの席で観たのですが、歌舞伎の色使いやデザインには他に類がない美しさがあります」

富樫 「今年は1月に『道成寺』、6月に『藤娘』、7月の『桜姫』と大役が続いています。これからさらに挑戦したいことは何でしょう?」

七之助 「どんな役でも演ってみたいです。そして型を自分の肉体にしみ込ませるために稽古を重ねることと、“こころ”をいかに表現していくかを追求したいです。父や玉三郎のおじ様、演出の串田監督といろいろな方に指導を受ける機会があるのですが、皆さんおっしゃるのは“こころ”、性根をいかに考え尽くして演じるかということです。役の肚というものを持ち続けて、ひとつひとつの舞台を大切に演じていきたいです」

 七之助さんは父・中村勘三郎さんから「人生は長いが、その中で肉体と精神のレベルがピタッと一致する時期は短い」と常々教えられるそうです。大役を勤める強靭な体力と、役のこころと突き詰める精神力。それがピッタリと合致する瞬間を迎えるには、とにかく稽古をし続けるしかないという真摯な中村七之助さんから目が離せません。

 
 

プロフィール

中村七之助

1983年生まれ。86年9月『檻(おり)』の祭りの子で初お目見得。87年1月歌舞伎座『門出二人桃太郎』で二代目中村七之助を名のり初舞台。二枚目、女方と幅広く演じ、美しい容姿と爽やかな演技が注目されている。『鏡獅子』では獅子の気迫みなぎる踊りを披露。『野田版 鼠小僧』ではコミカルな娘役をさらりと演じ、客席を大いに沸かせた。今年7月にシアターコクーンで上演された『桜姫』では美しさの底に流れる強さを演じきり、8月の新橋演舞場『石川五右衛門』、9月の平成中村座名古屋公演、10月の『錦秋特別公演 芯』と舞台に精力を注いでいる。特技はボウリング。

 
 
富樫佳織の感客道

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

『世界一受けたい授業』『世界ふしぎ発見!』『世界遺産』などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

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