歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



(※1)『毛抜』
寛保2年(1742年)に大坂大西の芝居で初演された『雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)』の三幕目にあたり、七世市川團十郎により歌舞伎十八番のひとつに選定された。

芝居を支配する、眼の力

 今月29日に、公演開始から2年の歳月を経てついに千秋楽を迎える「ブルーマングループ」。アダムさんも来日してからおよそ2年間、日本に滞在し舞台を重ねてきました。観劇の前には、お休みを利用して佐渡島に旅をしてきたばかり。ではここから、同時通訳でお楽しみください。

富樫 「歌舞伎座は初めてですか?」

アダム 「今日が4回目です。でもいつも3階席で観ているので、1階は初めてです。俳優の表情をしっかりと観ることができるので、とても楽しみです。歌舞伎座はとてもいい空間ですね。お客さんが開演を待ち遠しそうにしている感じがワクワクします」

 拝見したのは歌舞伎十八番『毛抜』(※1)です。御家乗っ取りを企む悪人たちの策謀を、豪快な気風を纏った粂寺弾正が暴いて一件落着となる江戸歌舞伎らしいおおらかな芝居。病を患ったお姫様の髪の毛が逆立つ演出や、巨大な毛抜の小道具を使うなど歌舞伎独特の演出法がたくさん盛り込まれています。

富樫 「特に注目したのはどんなところですか?」

アダム 「俳優の眼の力です。美しく迫力のある衣裳やインパクトのある化粧にまずは引きつけられますが、芝居を観ているうちに役者の眼の力に吸い込まれていく感じがしました」

富樫 「『ブルーマン』のパフォーマーも眼の演技がとても重要になっていますよね。似ているところ、発見したことはありますか?」

アダム 「歌舞伎俳優の演技を観ていると、目線をあまり移さずにじっと一点にとどめています。それが芝居全体を流れるどっしりとした空気を作り出していますね。『ブルーマン』のパフォーマンスでも、私たちには台詞がありませんから観客とは視線でコミュニケーションすることになります。いろいろなところを観るよりも、一点をじっと強く見つめたほうが鮮烈な印象を作り上げるということを実感しました」

 『毛抜』は、演じる俳優が観客に対して、大役を一幕勤め上げた口上を述べて幕となります。観客と役者がつながるこの趣向に、アダムさんはとても興味を持ちました。

富樫佳織の感客道

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