歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



ブルーマンの中にある歌舞伎

アダム 「『ブルーマングループ』のステージはパフォーマンスや音楽、最先端の映像技術といった様々なもので構成されています。演じている僕たちも毎日新鮮な発見があって飽きません。ですから僕自身、パフォーマーとして4年も続けています。実は俳優になる時『毎日同じステージを続ける』ということに不安があったんですよ」

富樫 「俳優なのに(笑)。私も『ブルーマングループ』を拝見した時に、歌舞伎と共通するスタイルを感じました。どちらも俳優が観客を巻き込んでいく、参加感のある舞台ですよね。どんどん劇場中が一体になる高揚感があります」

 『ブルーマングループ』のステージは、観客を徹底的に楽しませる仕掛けが次から次へと飛び出します。パフォーマーが客席を縦横無尽に移動したり、観客がステージに上がって出演者になったり。そうかと思えば、ブルーマンたちは途中でタクシーに乗って会場の外に出ていってしまったり。奇想天外。そこに江戸の歌舞伎と現代のパフォーマンスを繋ぐ点があります。

富樫 「観客を巻き込みながらステージを作り上げていく面白さとは?」

アダム 「その面白さは『ブルーマングループ』が伝えようとするメッセージに重なります。僕たちが観客と一緒に作り上げるのは、知らない人と一緒に笑ったり、おかしなものを目撃する連帯感です。僕たちが生きるこの時代は、メールやネットワークによってコミュニケーションがとても密になっている。でも人々はどこかで孤独感も感じています…」

 でも劇場のシートに座って、常識を覆すブルーマングループのパフォーマンスを観ていれば、まわりの人が自分と同じところで驚いたり笑ったりするのを確認することができる。観客は自分は独りではないのだと確認する、しかも楽しんで大笑いしながら。江戸時代の芝居小屋を描いた浮世絵を見る時、私たちが感じる自由で親密な空気。それがアメリカで生まれたエンターテイメントにも生きているのです。

富樫 「歌舞伎が好きな人はきっと『ブルーマングループ』も好きですね」

アダム 「ぜひ観てほしいです!そして理屈抜きに楽しんで欲しい。我々が普段とらわれている常識を疑うこと、人と自分が繋がっていることを実感するという体験がきっとできるはずです」

 観劇が終わった後、アダムさんはふと「歌舞伎の劇場には江戸時代の空気がそのまま残っているような気がします」とつぶやきました。私たちは誰も江戸時代を目撃したことはありません。でも時代も国境も超えて、江戸時代の日本に生まれた歌舞伎のエネルギーを感じるのです。
観ることとは、自由になること。
アダムさんの視点にまたひとつ、感客道を見出しました。

プロフィール

アダム・エードッシー

アメリカ・バーモント生まれ。マサチューセッツ州ウィートン大学、コネチカット州ユージン・オニール・ナショナル・シアター専門学校を卒業後、ニューヨークのブルックリンに暮らす。照明技師、技術監督、俳優としてオフ/オフ・オフ・ブロードウェイで活躍。
『ブルーマン』のパフォーマーとしてニューヨーク、シカゴ、ボストン、東京での公演に出演する。日本の文化に深い興味を持ち、日本語も学習中。最近覚えた日本語は「感無量」とのこと。 日本でおよそ2年にわたり上演された『ブルーマングループIN東京』公演は11月29日にいよいよ千秋楽を迎える。
「ブルーマングループ IN 東京」公式HP →

 
 
富樫佳織の感客道

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

『世界一受けたい授業』『世界ふしぎ発見!』『世界遺産』などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

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