歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

芝居する大道具に感動!

 『仮名手本忠臣蔵』の魅力は松の間の刃傷から討入りまで、様々な場面が展開されながら判官と由良之助の無念、浪士たちの決意と忠義が太い線に紡がれてゆく舞台性です。「松の間刃傷の場」から「城明渡しの場」に続く場面では大道具の転換が悲しみを演出する、舞台ならではの見せ場があります。

富樫 「 「足利館門前進物の場」 から「松の間刃傷の場」 は、廻り舞台で大道具が転換しました。転換の“間”で、建物の外から中に自分も入っていくような気分になりましたよね」

KIKI 「『歌舞伎では大道具も演技します』とイヤホンガイドでちょうど解説が入って、その通りだなと思いました(笑)。大道具の方が松の間の畳廊下をこしらえるところにも様式を感じました。“あの有名な場面が始まる”という心構えが自然にできた気がします」

富樫 「大道具の演技と言えば『城明渡しの場』で、城の門が後ずさっていったのも…」

KIKI 「私、あの場面は本当に感激しました!」

 塩冶判官の亡骸を光明寺に弔った家臣たちが館に戻ると、すでに表門は閉ざされ中からは敵方の声が聞こえる。そこで国家老の大星由良之助は、いきり立つ一同を諌めながらも仇討ちを心に誓い、館を立ち去る。舞台では去り行く由良之助とともに城門の大道具が後ずさり、遠のいて行く寂寥感が表現されます。

KIKI 「由良之助の無念がものすごく胸に迫ってきました。歌舞伎を観ると、実はシンプルな演出で人は心を動かされるんだなということを確認するし、それで十分なんだということに気づかされます」

富樫 「廻り舞台や道具の動きが見えるというアナログな方法が実は一番理にかなっているというのは、KIKIさんが取り組んでいるエコの活動や生活の中でもあるのでは?」

KIKI 「シンプルであるということは、限られたものにいかに機能を持たせるかだと思います。今、世界的な不況を乗り切るには新しいアイデアが必要、などと言われていますが、実は歌舞伎や日本の昔ながらの生活の中にすでにいいアイデアはたくさんあるんですよね。歌舞伎の中にもこれだけあるということを再発見しました」

富樫佳織の感客道

プロフィール

KIKI

武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。在学中よりモデルとしての活動を開始し、数々のファッション雑誌や広告に登場。2004年には映画『ヴィタール』で女優デビューし、2005年『スターフィッシュホテル』や2006年『パビリオン山椒魚』をはじめドラマにも多数出演する。散歩や国内外の旅先で出会った建築の楽しみ方を綴った建築探索・紀行エッセイ『LOVE ARCHITECTURE』を始め、執筆活動も好評。現在、カバーモデルを勤めるOZmagazineに『early bird KIKIの朝フォト日記』を連載中。
KIKIさん公式サイト⇒http://kiki.vis.ne.jp/

 
 
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富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

『世界一受けたい授業』『世界ふしぎ発見!』『世界遺産』などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

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