歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



着物を纏うのは“挨拶”である

 凛とした着物姿で、黛さんは観劇にいらっしゃいました。歌舞伎を観てみたいと思う女性の「いつかはやってみたいリスト」上位に、必ずランクインしている「着物で歌舞伎を観ること」。着物姿の方を目にするだけでも、非日常への扉が開かれる気持ちがします。

黛 「歌舞伎を観るならばハレの日を自分自身で演出しないともったいないですよね。たっぷりある上演時間を素敵な佇まいの劇場で過ごすのですから、お芝居を見るのはハレの日!とまずは自分で演出することが大切だと思います」

富樫 「(笑)なかなかハードルが高いですよね」

黛 「私も、できることならいつも着物で来ることを目標にしているのですが…忙しい時は洋服で開演直前に滑り込むこともあります。歌舞伎は本来、バタバタと駆けつけて観るものではないと思うのですが…」

 着物で歌舞伎を観に来ることは、当日その瞬間に至るまでの贅沢な時間を楽しむことだと黛さんは言います。

黛 「演目と配役を見てチケットを買った時から“歌舞伎を観る”序章が始まるのだと思います。俳優さんのことを調べてどんなお芝居になるのかと想像を巡らせたり、着物を着て行くとなれば、どのような着物にしようかと考えたり…そうしてハレの日を迎えるから格別な楽しさがあるんですよね」

富樫 「お話を伺っていると、観劇は季節の行事と同じように思えますね」

 この日、黛さんは2頭の蝶々をあしらった帯。観劇をした演目は「双蝶々曲輪日記」です。

黛 「着物の楽しみのひとつは季節を纏うということ、そして歌舞伎を観劇する場合は俳優さんや演目に合せて着物を着る楽しみです。装いを季節や場に合わせるのは、日本人の感性が紡ぎ出す『挨拶』なんですよね。俳句がそうですし、着物もまさに挨拶なのだなと思います」

富樫 「そう考えると俳句や着物がとても身近に、そして大切なものに思えます!ただ、忙しい日常の中では本来の意味での『挨拶』を割愛してしまいがちですね」

黛 「そうですね。ですから歌舞伎を観る時はできれば着物で行って、劇場の玄関をくぐった瞬間に忙しい日々のことを忘れてどっぷり江戸時代につかりたいなという感じがあるんです」

 着物を纏って劇場を訪れるひと、その美しい姿を観るひと。
着物や帯に託されたハレの日への想いを読み解くには、受け手側の感性も必要ではないでしょうか。そうした感受性は芝居や俳句、全ての日本文化の根底に流れる芯だと黛さんは言います。

富樫佳織の感客道

バックナンバー