歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

作品に余白を紡ぐ、余白を読む

 拝見した演目は『双蝶々曲輪日記 引窓』です。1749年に大坂竹本座で初演された全九段の人形浄瑠璃のうち八段目に当たる作品で、舞台は京都近郊の八幡の里。仲秋の名月が輝く夜の物語です。主人公・与兵衛の家の縁側には三方に盛られたお団子と、すすきのお供えがあります。

黛 「大道具を観るだけで日本人が古来いかに四季の変化に心を寄せてきたのか、そして自然を尊び、神仏に感謝して暮らして来たかが分かりますよね」

 人を手にかけた息子をかくまう母の想いと、家族の情に打たれて使命に背く主人公・与兵衛の情を描く物語を、“引窓”から差す月の光が効果的に演出します。

富樫 「実際にライティングで月明かりを作るわけではないので、私たちは窓から差し込む光や月の夜の明るさを想像で見ています。観る側、受け手の想像力を補って完成する表現は俳句もそうですよね」

黛 「日本の文化は『余白』の表現が実際に目に見えるものと同じくらい大切にされています。俳句ですと言葉にしている部分は17文字しかないけれど、その背景に何があるのかを伝え、探り、想像することで完成します」

富樫 「黛さんの句には、たった17文字にまるでひとつのお芝居を観たかのようなドラマ性や、長い長い歴史を感じます」

黛 「句を作るときにはもちろん言葉を紡ぐのですが、感覚として余白を紡いでいる感覚がすごくあります。その感覚を突き詰めていくと、実は17音の句で勝負しているのは余白なんですよね。短い言葉でどこまで想いが伝えられるかをいつも考えています」

 背景にある想いに読み手が触れられた時、端的に表現された世界は深く、そして重厚なものとなって心に響いてくる。
黛まどかさんが俳句の道を志すきっかけも、そうした余白で表現される人間の生きざまや想いを感じ取ったことだと言います。

富樫佳織の感客道

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