歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

歌舞伎に生きる、心を育てる家族のあり方

 続いて拝見した『新版歌祭文 野崎村』は1780年に大坂竹本座で人形浄瑠璃として初演されました。舞台は大坂の野崎村にある久松の実家。奉公先で金を紛失した咎から実家に戻された久松と、野崎村でずっと久松を慕っていた許嫁のお光は祝言を控えています。ところがそこに、奉公先の娘・お染が久松を追ってやって来ます。

富樫 「この芝居を観ていつも思うのですが、許嫁のお光がお染に意地悪くしたり、それを我慢してお染が気持ちを伝えるのに、久松はほんと何もしないですよね!最後はお光の父親が出てきてまとめるわけですし」

陰山 「そういう観方もあるんですね。私は自然に観てしまいました。ああ、こういうふうに女性ふたりに挟まれてしまったら黙っているしかないなと(笑)」

富樫 「男性から見ると、あの場はなにもしないのが普通なんですか!」

陰山 「そうとも限りませんが…なんとしようがないですよね(笑)。ただ、最後に父親の久作が出てきて若いふたりの行動は道理に合っていないと諌めるでしょ。そういうところに、昔の日本の家を思わせる懐かしさがありました」

富樫 「懐かしさですか?」

陰山 「少し前の日本には、ある程度は子供の自由にさせていながら、何かが起こったら父親がちゃんと責任を持ち、まわりの人の感情を汲み取りながら道を示すという家庭像がありました。でも親が道を子供に諭すということが最近は少なくなっています」

 そして陰山先生がもうひとつ感じた懐かしさは、ゆとりある時間の中で暮らしている日常の豊かさだと言います。

富樫 「先生は子供の能力を伸ばす生活習慣として『早寝、早起き、朝御飯』という3つを提唱していますが、江戸の生活はきっと黙っていてもそれが実践できていますよね」

陰山 「現代のように受験もありませんしテレビやインターネットもありませんから当然なのですが、芝居で繰り広げられる彼らの暮らしぶりを見るだけでも、時間が豊かにあったのが分かります」

富樫 「先生が子供たちに反復学習を提唱するのも、自由な時間を作るためだそうですね?」

陰山 「その通りです。『百ます計算』や『音読』は、読み書き計算の練習はなるべく早く済ませようよ!ということでもあるんですよ(笑)。そうして自由な時間を作って、ぼーっとすることから新しい発想が生まれるんです」

富樫佳織の感客道

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