歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

自分の知性で楽しみを見つける

 最後の幕は宮藤官九郎さん作の『大江戸りびんぐでっど』。江戸の町を、一度死んでも生き返る 「ぞんび」が埋め尽くす奇想天外で楽しい物語です。江戸の香りを感じさせながら現代を映した新作歌舞伎はベテラン俳優はもちろん、若手の俳優さんが大活躍して劇場を盛り上げました。

富樫 「先生は小学校で子供の能力を自由に伸ばしていく教育を実践し続けていらっしゃいます。伝統芸能のように若いうち、例えば小学生で自分の将来を決めることをどのようにご覧になりますか?」

陰山 「伝統の世界は家の芸や技を受け継がなければならないものと、外にいる私たちは感じがちですが、実は代々の仕事を受け継ぐには本人の意志が一番重要です。しかも自分の将来を決める最初のチャンスは小学校4年生から6年生くらいの間に必ず訪れるんですよ」

富樫 「そうなんですか!想像しているよりずっと早いですね」

陰山 「確固たる決定はもっと先になりますが、大人になったらこういう仕事をしたいと最初に意志を持つのはそのくらいの年齢です。しかも世襲というのはだた継承させるだけではないですよね。親は自分が苦労して築いてきたものを持っているわけですから、本当にできると見極めなければ世襲はさせないでしょう。幼い頃に自分の将来を決めことで切り開かれる才能があると思います」

 新作歌舞伎に流れる創造の魂、その根底に流れる伝統の芸を観て、陰山先生は最も伝統的な世界にこそ、実は最も革新的なものが内在していると感じたそうです。

陰山 「歌舞伎が親から子へと芸を継承して生き続けてきたのは、この世界の大人たちがみんなカッコいいからなんですよ。今日観た『大江戸りびんぐでっど』はコミカルなストーリーでしたが、見せ場もあり、泣かせる場面もあり、なにより新しいものに一生懸命取り組んでいる俳優さんの姿がカッコいい!世襲じゃなくても子供たちは大きくなったら自分もなりたいと思うでしょうね」

富樫 「観客の私たちが400年前から続いているものを観るということには、どのような意味があるのでしょうか?」

陰山 「古典を観るというのは、本当の意味での“勉強”だと思います。何が面白いのか、どこに感動するのかを自由に自分の知性で評価をしていくことこそ、勉強なのです。どこかに書いていることに頼らずに、自分の頭で考えるということが子供にも大人にも、最も重要なことだと思います」

 事前にあらすじや決まり事を覚えていくことが“勉強”なのではない。遥か古の時代に日本人が作り上げた芝居に何を見出すか。それが歌舞伎を観る意味なのだという先生の言葉の背景に、長い歴史と、沢山の人が継承してきた芸の深みを感じた気がしました。

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プロフィール

陰山英男

1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒業後、兵庫県朝来(あさご)町立(現在朝来市立)山口小学校教師時代から反復練習で基礎学力の向上を目指す「陰山メソッド」を確立し脚光を浴びる。2003年4月広島県尾道市土堂小学校校長に全国公募により就任。百ます計算や漢字練習の反復練習を続け基礎学力の向上に取り組む一方、そろばん指導やコンピューターの活用など進級を問わず積極的に導入する教育法によって子供たちの学力向上を重視している。
現在、立命館大学教育開発推進機構で教授を務めながら、立命館小学校副校長を兼任。著書に『本当の学力をつける本』『学力の新しいルール』(文芸春秋)など多数。
陰山英男さん公式サイト⇒http://kageyamahideo.com/

 
 
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富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

『世界一受けたい授業』『世界ふしぎ発見!』『世界遺産』などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

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