歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

芝居は細部に宿る

 二幕目は享保4年(1719年)に大坂の竹本座で初演され、後に歌舞伎に移入された『平家女護島 俊寛』。絶海の孤島に配流となった俊寛僧都は流人生活に疲れ果てた心情を醸し出しながら、義太夫狂言の型の美しさと様式をみせる演目です。

粉蝶「江戸時代に作られた戯曲ですが、芝居から伝わってくる感情は“現代”ですよね。当たり前のことかもしれませんが、俳優たちはちゃんと“いま”を生きているんです」

富樫 「歌舞伎や古典芸能と聞くとなんとなく、何百年も前と同じものを教科書通りに演っている堅苦しいものというイメージを持ってしまうかもしれませんが…そうではないんですよね」

銀粉蝶 「そのイメージはあると思います。ところが実際に観てみると、当たり前のことですが、 “演劇”なんです。俳優が役を自分の中に取り込み、台詞がないところでも心情を表現しているでしょ。だから現代を生きる私たちに気持ちが伝わるんです」


富樫 「古典だと、演じ手が自分の台詞以外のところはお行儀良くしているイメージがなぜかありますよね(笑)。だから自分もお行儀よく観なければならないんじゃないか、という印象が観たらガラリと変わります」

銀粉蝶 「『俊寛』を観ていて嬉しかったのは、俊寛も千鳥も、ずっと細かく細かく芝居をしているんですよね。台詞がない場面でも、ちょっとした動きや顔の表情の積み重ねから役柄や置かれた立場を観る側は想像するでしょう? 私はどんな舞台でも細部に魂のこもった芝居を観るのが好きです」

富樫 「千鳥の細かい芝居に、銀粉蝶さんも細かく反応していましたが?」

銀粉蝶 「初々しくて、いちいちかわいいんですよ!(笑)。リアリティーがあるのだけれど、様式でそれを表現するところもあって面白い。観ていたら歌舞伎の俳優さんの演技のテクニックというのはすごいなぁと、しみじみ感心しました」

富樫 「例えばどんなことでしょう?」

銀粉蝶 「流人の孤独であったり、恋人が去っていく女の悲哀だったり、感情を張りつめて芝居をしていますよね。その一方で、歌舞伎独特の型であったり見得を切るちょうどいいタイミングも考えていくのは、すごいことだと思います。私にやれと言われても絶対にできないな~(笑)」

 観客として舞台を観て「ごく自然」だと感情移入する背景には、役を理解し尽くす俳優の鍛錬と、役と一体になるからこその芝居があると銀粉蝶さんのお話を伺って改めて思いました。特に歌舞伎の舞台では伝統の『型』と『リアリティーのある芝居』が“江戸”と“現代”の結び目なのではないでしょうか。

富樫佳織の感客道

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