歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



(※1)『青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)』
文久2年(1862年)に江戸市村座で初演された。初演時に弁天小僧を勤めたのは、当時十九歳の五世尾上菊五郎。その出世芸になったことから音羽屋の家の芸となった。

 

古典って、新しい!

 それは、お馴染み河竹黙阿弥作『白浪五人男』(※1)です。序幕から大詰までの通し狂言には、江戸の粋と、大胆な意匠が詰まっています。歌舞伎座前で待ち合わせしたヤッコさんは、本日もロックテイスト。『白浪五人男』との出会いで何を感じていただけるのでしょうか?

高橋「歌舞伎はちょくちょく観ているんですよ。銀座で仕事をしていてちょっと時間があくと一幕見席に座ったりもします。ただ、今日の演目は初めてです」

 『白浪五人男』は、日本駄右衛門、弁天小僧菊之助ら五人の盗賊の生きざまと彼らと因果のある御家再興物語を盛り込んだ河竹黙阿弥の代表作です。登場人物の魅力、物語全編を貫く爽快な台詞のリズム、そしてなんといっても大胆な衣裳が魅力です。まず前半は桜満開の序幕から、うっそうとした暗い谷底へ。真っ暗な谷間で5人の盗賊が出会うだんまりの場面には独特な美しさがあります。

高橋「歌舞伎というと、日本的とか、古典でゆっくりしたテンポでという思い込みがあるけれど、全然違いますね!今のシーンなんて美的で、モダンで、フランスの前衛芸術を見ているようでした」

富樫「前半でテンポよく展開した流れがピタっと止まる感じがしましたね」

高橋「ここまで派手にやるのか!というところと、今のだんまりのシーンのように、ここまで静かにやるのか!という静と動のバランスがね、計算されていて素晴らしいと思いました。本当に江戸時代のセンスってすごいわよね」

富樫「衣裳もすごかったですよ。特に南郷力丸。虎の毛皮でしたよね」

高橋「虎の毛皮と水墨画を描いた着物の組み合わせはすごいわよ。それがピタっと決まっていてモダン。今見ると新しいし、とても洗練されていると思いました。昔の日本人のセンスって大胆だったのよ」

富樫「同じ日本人なのかと驚くことがあります」

高橋「今日、歌舞伎座に来る途中で着物のかたを何人か見かけたんですよ。今の都会の人は、色も柄もマイナス、マイナスでどんどんシックにしていくでしょ。それは洋服の影響もあるんだけど、私はもったいないなと思う。でも歌舞伎座に入っていくお客さんは華やかな着物が多くて安心しました」

富樫「歌舞伎の舞台衣裳を観ていると『カッコいいー』と思います。日常にはとても応用できないですけど…」

高橋「エッセンスは大丈夫なんじゃない?歌舞伎の衣裳が持つエッセンスは、みんなやってきたことだと思いますよ。70年代のファッションとかロンドンポップとか、そこに通じるエッセンスが歌舞伎にあるなと私は共感しました」

 

富樫佳織の感客道

バックナンバー