歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



   

歌舞伎はアバンギャルドを内包して生き続ける

 1971年。ロンドン、キングスロード。初めてロンドンに渡った高橋靖子さんが手がけたのは、世界的ファッションデザイナー・山本寛斎さんのショーのプロデュースでした。衣裳には歌舞伎の引き抜きが取り入れられ、一瞬にして表情を変えるデザインと趣向は多くの人を驚かせました。

高橋「白浪五人男で、弁天小僧が男だと分かった瞬間に着物をばーっと脱ぐでしょう?まさにあれなんです。モデルが着ているドレスにジッパーがついていて、彼女がくるくる回ると中に鮮やかな原色のとても日本的なドレスを着ていたり。会場は大喝采でした。モデルが連獅子のような毛をつけたりもしていたのよ」

 歌舞伎の新しさを再発見してくださったヤッコさんとともに、続けて渋谷のコクーン歌舞伎を拝見しました。歌舞伎座とは打って変わり、シンプルな劇場。芝居が始まる前から俳優たちがわいわいと客席を歩き回り熱気に溢れているかと思えば、芝居の中では暗転が効果的に使われて緊迫感を高めます。

高橋「古典の明るさとは違って、ものすごくアングラな、日本の演劇が追求してきたリアリズムみたいなものを感じました。若い頃、唐十郎さんのテントによく行っていたのですが、その時の感覚に通じるような」

富樫「どこか猥雑な感じがですか?」

高橋「登場人物がどんどん堕ちていく様を観ながら、でも観ている側はそこから沸き上がるエネルギーを感じとるんですよね。そして何でもありで、自由。今日の水を使った演出も『お客さんの服が汚れたらどうしよう』ということを優先したらできないでしょ。観る側と創る側に、それを承知でやっているという約束があるんですよ」

富樫「面白いですね。400年以上前に生まれた歌舞伎の中に、60年代があり、70年代があり、そして現在がある、全部つながっているんですよね」

高橋「時代は繰り返すとよく言いますが、ただ繰り返すだけではないんですよね。自分の感情を突き動かされることというのがどんな時代でもあるし、日本人に訴える美意識や感情というのは変わらない。それが生まれ変わり続けているのだと思う」

 高橋靖子さんと歌舞伎を観て感じたのは、自分の引き出しが多ければ多いほど楽しみが広がるということです。原色づくしの歌舞伎衣裳は、その組み合わせのセンスもさることながら「元気な色」を組み合わせることのできた江戸時代の作り手たちのパワーの象徴であること。楽しんでものを創るサービス精神が、観客を喜ばせるということ。感客である自分も、感じる幅を広げていきたいなと肝に銘じました。

 

プロフィール

高橋靖子

 日本スタイリスト界の草分け的存在。早稲田大学を卒業後、表参道の広告制作会社を経てフリーランスのスタイリストに。71年、単身ロンドンに渡り、山本寛斎氏のファッションショーを成功させる。その後、ジギー・スターダスト期のデヴィッド・ボウイの衣裳を担当。現在も広告、CMなどで活躍中。 著書『家族の回転扉』で第19回読売「ヒューマン・ドキュメンタリー」大賞を受賞。ほか著書に『表参道のヤッコさん』(アスペクト)『小さな食卓おひとりさまのおいしい毎日』(講談社)『わたしに拍手!-Yacco!!PatiPatiPati』(幻冬舎)。

 

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

「世界一受けたい授業」「世界ふしぎ発見!」「世界遺産」などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

富樫佳織の感客道

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