歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

歌舞伎の劇場はサービス精神に満ちている

伊藤「劇場がデパ地下みたいになってる!」

富樫「売店でいろいろな実演販売をやってますからね(笑)」

伊藤「実は今まで歌舞伎座は3階席でしか観たことがなかったし、いつも芝居にばかり集中していたので…。1階の売店がこんなに賑わっているのを知りませんでした」

富樫「幕間が長いからついつい買ってしまうんですよね。“めで鯛焼き”とか」

伊藤「この雰囲気は買わざるを得ないでしょう。みんな楽しそう。ほら、売店を見て歩いているお客さん、ニコニコしてますもん」

 かつては舞台に立ち今は観客として劇場に通い続ける伊藤さんは、芝居の内容はもちろん劇場の雰囲気を味わうのが何より楽しいとおっしゃいます。

伊藤「歌舞伎の劇場はこの空間や空気に長い歴史が詰まっている感じがいいですよね。何十年、何百年の間、名優たちがここで芝居をしてきた“歴史”と、その空間で僕らが芝居を観る“現代”がくっついているんですよ」

富樫「なるほど。タイムスリップしたような気持ちになるのは“歴史”と“今”が両方あるからなんですね」

伊藤「ブロードウェイの劇場なんかもこういう空気なんですよね。こういう空間に身を置くと芝居を観る気持ちが高まりますよ」

富樫「ずーっと劇場があるということは、何回も、それこそ何百回も来るお客さんがいるわけですよね。だから“デパ地下”的なものが必要なんでしょうね」

伊藤「上演前のこの時間もお客さんが和気あいあいとして、盛り上がりますよねぇ」

 お話を伺いながら伊藤さんと売店を物色していると、次から次へと試食のおせんべいやおまんじゅうを勧められました。今やデパ地下でもやや希薄なサービスとなった試食。これにもまた芝居見物の高揚感をそそられます。

伊藤「劇場全体がアミューズメントパークのようになっていますよね。売店の売り子さんがみんな、お客さんを楽しませようというサービス精神に満ちてますもん。だって今時、せんべい1枚全部を試食でくれませんよ(笑)」

富樫「太っ腹すぎてびっくりしましたね。伊藤さんが興味を示したからお店の人も嬉しくなったんじゃ…(笑)」

伊藤「あの人の売り口上はすごい!きっと江戸時代の芝居見物ってこうだったんでしょうね。芝居がメインだけど、今の遊園地や観光地に出かけるような気分に近いのかもしれない。そもそも歌舞伎自体がものすごいサービス精神にあふれた芸能じゃないですか?」

富樫「お客さんが喜ぶほう喜ぶほうに『これでもか!』って作っていった結果、どんどんエンターテイメント性が高まっていったという」

伊藤「さっきブロードウェイを例にあげましたけど、僕は芝居って俳優だけではなく劇場で働くスタッフやお客さん、みんなで盛り上げて完成すると思うんですよ。歌舞伎の劇場にはサービス精神があふれている。だから何度も来たくなるんでしょうね」

富樫佳織の感客道

バックナンバー