歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



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日産 「Be-1」

(※2)判官
塩冶判官。伯州(現在の鳥取県)を治める大名。高師直に言い寄られていた妻の顔世御前が、申し出を断った腹いせにねちねちとした嘲りを受け、耐えかて足利館松の間で刃傷(にんじょう)に及ぶ。

「仮名手本忠臣蔵 第三段目」初代歌川国貞画
早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁
cThe TsubouchiMemorial Museum, WasedaUniversity, All Rights Reserved.

 

忠臣蔵に見る、社会人の生きる道

 坂井さんは日本を代表する大企業とコラボレーションして、話題の企画や商品を次々と世に生み出してきました。企業の業績を左右する商品を生み出すこと、ビジネスというシビアな世界の最前線で活躍する坂井さんに、こんな質問をぶつけてみました。

富樫「事件の発端となる高師直(こうのもろのお)。あの人って、ホント我慢ならない人じゃないですか?」

 『仮名手本忠臣蔵』は元禄末の赤穂浪士討ち入り事件を題材としていますが、当時起こった事件を劇化することが禁止されていたために時代を室町に、登場人物の名前も変えられています。
 高師直は吉良上野介がモデルとされ、将軍の執事役という権力をかさにした横暴な振る舞いの多い好色な男。

富樫「自分の横暴な意見に部下(若狭之助)が反論したのでいじめるまでは分かりますよ。でもその部下から賄賂を貰ったとたん態度を変えてゴマをすってみたり、腹いせに他の部下をののしったり…どうなんですか?師直?」

坂井「でもああいう悪人は可愛いじゃないですか。分かりやすいですもん。自分の都合しか考えてないでしょ。逆に討ち入りをする四十七人というのは自己犠牲で命を捨てようとしますよね。現代の世の中では、そちらのほうが芝居がかって思えるかもしれない」

富樫「師直は今もいそうですよね。会社とかに(笑)。筋書を読んだら、俳優さんのほとんどが『自分はあそこで師直を斬らない』と語っていたのですが」

坂井「企業文化に置き換えて考えると普通ですよね。目上の人には例え理不尽なことを言われても逆らわないというのが会社ですから。その体質ができたのは江戸時代なのではないでしょうか。戦乱の世では下克上が当たり前だったけど、天下太平の世の中を維持するにはそういうルールが必要だった。だからこういう話が生まれ流行したのではないでしょうか」

富樫「ということは判官(※2)はサラリーマン失格?!」

坂井「若狭之助や判官の気持ちは、日本のサラリーマンならすごく理解できると思いますよ」

富樫「師直を“単純な人”ととらえれば腹も立たず我慢できるんですね…」

坂井「会社員的な考え方でいくと判官は師直を斬らないのが正解。出世するためにはね」

富樫「でも本当に『松の間』でののしられる台詞を聞いていると、くー!腹立つー!と思ってしまうんですけどね」

坂井「そこで彼が師直を斬るのは、会社員としては成功ではないけれど『人間の情』としてはありなんですよね」

 もしも自分が判官の立場だったなら…間違いなく師直を斬る!と思う方はサラリーマンとして出世街道を進むタイプではないのかもしれません。ところが坂井さんは『忠臣蔵』の物語はだからこそ、日本人の精神性を現していると言います。

富樫佳織の感客道

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