歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



劇場で観るから面白い!理由

 通し狂言は演じるほうも、観るほうも精神力と体力を使うと思います。歌舞伎の長い上演時間いっぱい、物語に引き込まれ集中力を使い続けると1日の仕事を全てやり終えたかのような満足感と心地よい疲労感を味わいます。

富樫「江戸時代の人はきっと朝から晩までこうして芝居を観ていたんですから、すごいですよね」

坂井「でもずーっと集中力を要求されるわけでもなくて、観ているほうが気持ちの緩急をつけられるようにできていますよね。サッカー観戦に近いような気がします」

富樫「サッカーですか?」

坂井「サッカーの試合って、ほとんど点が入らないでしょ?」

富樫「そうですね」

坂井「点数が入らないけれど皆ずっと観ていられるんですよ。選手の動きや監督、他の観戦者なんかを観るのも楽しいし。で、点数がずっと入らないけど突然バーンと選手たちの動きが連携してゴールが決まった時に『おお!』とスタジアム全体が盛り上がる感動やインパクトがありますよね」

富樫「だからスタジアムにしろ劇場にしろ、その場で観ていることが楽しいんですね」

坂井「ストーリーを追うことそのものだけじゃなく、ざわざわした空気とか、俳優の芝居に引き込まれて一体になるカタルシス、そういった気持ちよさを楽しむ場なんでしょうね。江戸時代がどうだったのか、すごく知りたくなりました」

 坂井さんは芝居を観ながら「江戸時代に生まれた歌舞伎の原点はどうだったんだろう」「どのように変わって今のようになったのだろう」と歌舞伎の本質を作り上げたものを読み解こうとなさっていました。
 ものが生まれた瞬間、そこで何が起こったのかに注目する。その目線が次々と新しいものを生み出す創造性の源だと感じました。

 『仮名手本忠臣蔵』を通して見つけた日本人としての倫理観、そして社会人としての生きる道。現代にも400年前と同じ心と社会の掟が生きている。坂井さんのお話を伺い、まさに時空を超えて感じ、学ぶ、観客としてのありかたを会得しました。私も師直のような人物を寛大な心で見られる日が来るのでしょうか…。

 
 

プロフィール

パトリック・ハーラン

 1947年、京都市生まれ。京都市芸術大学デザイン科に入学後、渡米。以来、コンセプターとして日産自動車「Be-1」「PAO」といったそれまでの国産自動車にはなかったスタイルの車を世に送り出し、フューチャーレトロブームを創った。1988年には、日本を代表するカメラメーカー・オリンパスより「O-Product」、91年には「Ecru」を発表。それまで黒色が当たり前だったカメラの世界に金属の輝きを持つボディの製品を創り出し世界的ヒットとなる。現在も情報通信関連のプロダクトやコンテンツ開発などを多数手がける。
現ウォーターデザインスコープ代表。慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科 教授。

 

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

『世界一受けたい授業』『世界ふしぎ発見!』『世界遺産』などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

     

富樫佳織の感客道

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