歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



(※2)『平家女護島 俊寛』
享保4年(1719年)に大坂竹本座で全五段の時代浄瑠璃として初演され、翌年に歌舞伎に移された。原典の『平家物語』では赦免されない俊寛を、一度は許されるよう描き、海女・千鳥を登場させ彩りを加えるなど物語の起伏を増している点に近松門左衛門らしさがうかがえる作品。

 

皆が喜んで観に来る歌舞伎は優秀なヒット商品

 海外サロンのライセンスを取ったヘアケア商品「ヴィダルサスーン」や「パンテーン」の名前を、ほとんどの方が一度は聞いたことがあると思います。和田さんは日本における新商品の立ち上げからブランディング、市場でヒットを飛ばすまでを手がけた敏腕マーケッターです。プロの目線であえて歌舞伎を観ていただくと…

和田 「マーケティングというのは、商品のことをまず『知る』そして『欲しいな』と手に取っていただく、その後に『また買いたい』と思っていただくように道筋を作る仕事です。そういう意味では歌舞伎はとても優れていますよね。皆がこぞってチケットを買っていますけど、“喜んで買っている”というのがポイントです。喜んで行動を起こしてもらえるというのはヒット商品でもなかなかありません」

富樫 「しかも江戸時代…400年前から大勢の人が喜んで来ているわけですから、すごいですよねぇ」

和田 「私は歌舞伎って、テレビのような感じだと思うんです。江戸時代もそうだったのではないかと思うし、現代でもそのエッセンスを持っていると思います」

富樫 「ワイドショーやトレンディードラマ的な要素がありますよね」

和田 「歌舞伎で描かれるストーリーには結構どぎついものもありますよね。人が殺されてしまったり、心中したり。江戸時代は長く平和が続いたので、泥棒など小さな事件はあったにせよ、身近で大事件が起こる世の中ではなかったでしょ?」

富樫 「なので歌舞伎はガス抜き的な意味を持つ娯楽だったと言われていますね」

和田 「平和な世の中であればあるほど、人間は人の不幸や、びっくりする話が観たくなるのかもしれませんね。人が死んだり、親子が離ればなれになったりするのは非日常世界ですが、歌舞伎には日本人なら誰でも共感できる舞台設定やストーリーがあります。だから安心して楽しめるのではないでしょうか」

富樫 「今日観た、『俊寛』(※2)などもそうですよね。俊寛が流された島に行ったことのある観客は江戸時代おそらくいない訳ですから」

和田 「知らない世界だからこそ『千鳥はかわいそうねぇ』と思いながら観ていることができるんですよね」

 観客がこぞって観劇に訪れ、喜んで帰っていく。それが400年以上も続いていることを考えると、確かに歌舞伎は世界でも類を見ないヒット商品だと言えると思います。その背景には、毎回活き活きとした芝居を見せる俳優はもちろん、衣裳や大道具といった“世界一流のチーム”があってこそと和田さんはおっしゃいます。

富樫佳織の感客道

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