歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



   

現代に生き、古典にひたる恍惚

 小島聖さんは古典の名作と言われる舞台にも精力的に挑んでいます。ロシアの文豪サルティコフ・シチェドリンが書いた「ゴロヴリョフ家の人々」、フランスの作家ジャン・アヌイがジャンヌ・ダルクの生涯を書いた「ひばり」、チェーホフ4大戯曲のひとつに数えられる「かもめ」、シェイクスピア…。100年以上前に書かれた芝居を演じることを通して見つけた、古典作品の魅力とは-

小島 「古典は難しいと思われがちですし、実際に私も舞台のお話をいただくと『理解できるかな…』とドキドキしてしまうのですが、実際に演技を通して作品の世界に入ると、本のよさ、お話の面白さをひしひしと感じます」

富樫 「100年以上前の人物を演じて、終わったら現代の自分に戻ることを日々繰り返す違和感とかは…」

小島 「感じないですね(笑)。古典を演じて強く思うのは、ひとの気持ちって、どの時代も一緒だということなんです。演出家の方や他の俳優さんと一緒に“難しい”と思われる作品をどう作っていくかにも醍醐味があります」

富樫 「台詞も現代の口語とは随分違いますよね。美しい言葉が古典の魅力のひとつですが、そこに感情をのせる難しさは?」

小島 「シェイクスピアの作品を初めて演じた時に、演出家から言われたことが今も忘れられません。外国人の演出家だったので彼は日本語が分からないのですが、台詞を詩のように朗々と声にすると怒られるんです」

富樫 「音で分かるんですかね」

小島 「あとは気持ちです。彼に言われたのは、たとえ台詞が詩のようであっても、ただキレイに音にするだけでは観ている人の胸を打たない。美しい台詞の裏にある気持ち、役者の感情が動いていなければ観ている人に伝わらないんだと。ああ、それが古典を演じるということなんだと思いました」

富樫 「先ほど伺った、歌舞伎の型にも通じるお話ですね」

小島 「翻訳物の古典も“難しい”と身構えず、歌舞伎のように知っている俳優さんが出ているからというようなきっかけで観ていただきたいです。そうすればきっと、人の心は伝わるはずですし。活字で読むよりも俳優の台詞を通したほうが違和感なく世界に入っていけるのではないかと思います」

 劇場は、私たち観客が体験したことのない世界に行き、時間も国も違う登場人物に感情移入することで“自分ではない誰か”をつかの間生きる場所ではないでしょうか。舞台にいる俳優の声、動き、息づかいが自分と一体になった時、私たちは別人の生きざまを通して自分の人生を見つけるのかもしれません。
 小島聖さんが舞台で放つエネルギーは、ひとりの人間が生きるために持つ変わらぬ「強さ」、それを受け止め演じる感受性なのではないでしょうか。

小島 「ところで今日は、3月14日。松の廊下の刃傷が起こった日なんですよね。その当日に芝居を観られるというのも、古典の面白さですよね!今日この芝居を観られてよかったです」

 小島聖さんの目線は元禄時代に起こった事件を通して、現代に生きる俳優、そして数百年前に生きた人物とが重なる瞬間を観る楽しさを教えてくれました。

富樫佳織の感客道  

プロフィール

小島聖

3月1日生まれ、東京都出身。1989年、NHK大河ドラマ『春日局』への出演を皮切りに、映画・TVドラマ・舞台を中心に多数出演。近年は、『ひばり』『欲望という名の電車』(2007年)『かもめ』『眠りのともだち』(2008年)『パンク侍、斬られて候』(2009年)など演劇への出演を精力的に続ける一方、TBS系連続ドラマ『ラブシャッフル』などのTVドラマや、BS朝日EARTH Friendlyスペシャル『小島聖のスローライフ・イタリア豊かな食&暮らしを訪ねる旅』などにも出演。

     
   
富樫佳織の感客道

富樫佳織

放送作家。NHKで歌舞伎中継などの番組ディレクターを経て、放送作家に。

『世界一受けたい授業』『世界ふしぎ発見!』『世界遺産』などを手がける。中村勘三郎襲名を追ったドキュメンタリーの構成など、歌舞伎に関する番組も多数担当。

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