歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



芝居は細部に宿る!『十二夜』は宝探しのような芝居


 「正面玄関からこの劇場に入るの、すごく新鮮です!」
待ち合わせをした6月の新橋演舞場。たくさんのお客様と劇場に入る瞬間、美波さんは懐かしさと新鮮さが混じった表情です。

 新橋演舞場は今年2月『帰ってきた浅草パラダイス』で沼沢八重役を演じ、一ヶ月舞台を務め上げた劇場です。

美波 「実は、歌舞伎を観るのは今回が初めてなんです」


 ざわざわとした観客の声に包まれ、嬉しそうに劇場の中を見渡す美波さん。すーっと客電が落ちるのと同時にざわめきが静まると、劇場は東洋と西洋が混じり合った美しい世界に。蜷川幸雄さんの演出で2005年に歌舞伎座で初演された『NINAGAWA十二夜』は原作であるシェイクスピア作品の楽しさと言葉遊び、蜷川演出ならではの迫力ある美しい装置で観客を別世界へ誘います。

美波 「蜷川さんらしい演出がたくさん散りばめられていて『エレンディラ』に出演していた時のことを思い出しながら拝見しました。そして感動したのは、歌舞伎俳優の方の身体表現の素晴らしさです」

富樫 「今回は主膳之助と妹の獅子丸実は琵琶姫と、男女をひとりの俳優さんが演じる趣向です。女方の表現を女優である美波さんはどうご覧になりますか?」

美波 「精神的な意味での演技はもちろんですけれど、菊之助さんのお芝居を見ていてすごい!と感激したのは、男女を演じ分けるための身体の使い方です。普通の“立つ”“座る”といった動作でも、足の引き方ひとつで男らしさ、女らしさを表現なさるでしょ。長い時間をかけて培われた歌舞伎の所作には、小さなことでも全て意味があるんですよね」

富樫 「獅子丸は中身は女だけど、琵琶姫が男装して男性を演じている。普通の男女二役ではなく、二重構造なんですよね。獅子丸だけを観ていると男っぽいなと思うのですが、主膳之助が出てくるとがぜん獅子丸が実は女の人なんだと思えますよね」

美波 「どちらにも恋しちゃいそう(笑)。織笛姫や左大臣が獅子丸に惹かれる気持ち、すごく分かりますもん(笑)。それだけ、違う人物としての魅力をきちんと演じ分けていらっしゃるんですよね」

 芝居を観ながら美波さんは誰よりも大きく舞台に拍手を贈り、そして誰よりも面白いところでは大きく笑います。が…、たまに誰も笑っていないところでひとり笑っている場面も…。

美波 「あれはですね…。劇中で流れる音楽が蜷川さんの他の作品と共通していたり、舞台装置の転換や俳優の動きに現代劇と同じ演出効果があって、嬉しくなって笑っていたんです」

富樫 「なるほど…蜷川幸雄演出作品に出演した女優さんならではの見方だったんですね。改めて歌舞伎『十二夜』はいかがでしたか?」

美波 「冒頭の場面から、舞台装置と音楽、そして歌舞伎ならではの謡い上げるような台詞が融合して創る美しさに胸を打たれました。歌舞伎はもちろん、舞台芸術というのは音の融合で観客を魅了する部分が大きいのだと改めて今日、発見した気がします」

 女優でありたい――
 舞台を愛し、舞台の上で自らの感受性を爆発させる美波さんが芝居に注ぐ目線は、愛情に溢れています。

富樫佳織の感客道

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