歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

新橋演舞場の『ほっとする感じ』が好き

 今年2月、久世光彦四回忌追悼と銘打って行なわれた『帰ってきた浅草パラダイス』で美波さんはヒロイン役の沼沢八重を演じました。福島から上京し、都会の荒波に揉まれながらも中村勘三郎さん演じる卯之助に愛され、真直ぐに強く生きていく八重の姿は大喝采を浴びました。

 40分という長い休憩時間、ご自身が出演なさっていた舞台とは逆に客席を体験していただきたいと座席でお弁当を食べていただきました。

美波 「この気楽な感じがいいですよね」

富樫 「そうですか…。よかった。女優さんに客席でお弁当を食べていただくのはちょっとチャレンジングかと思っていたのですが(笑)」

美波 「新橋演舞場もそうですし歌舞伎の劇場は、客席がお芝居を見る場所であり、食事やおやつを食べてもいい場所でもあり、たくさんのことができるでしょ。そういう空間は楽しいし、理想です」

富樫 「現代劇の劇場は客席で飲食をしませんよね。『浅草パラダイス』にご出演した時は、休憩後の舞台はいつもと違った感じがありました?」

美波 「休憩の後に幕が上がると、客席のほうからぷ~んとご飯の匂いがかすかに漂ってくるんですよ」

富樫 「え!舞台に!?それは演じる側としてどう思われるんですか?」

美波 「なんか、アットホームな感じがしていいな~と思いながらお芝居していました」

富樫 (爆笑)

美波 「でもそれがいいんですよ!客席のお客様と距離がすごく近い感じがして。新橋演舞場で『浅草パラダイス』に出演させていただいた1ヶ月間は、毎日が本当に楽しくて、これまでの舞台経験でも特別なものでした。中村勘三郎さんと藤山直美さんがいらっしゃるので『きっと舞台で何が起こっても芝居は続くから大丈夫』という大きな安心感がありましたし」

富樫 「美波さんの舞台を拝見すると、まるで芝居をするために生きているというような力強さを受けるのですが…普段は緊張も大きいんですね」

美波 「実は、緊張しないで毎日舞台を楽しめたのは初めてだったんですよ。ですからこの新橋演舞場は、舞台も客席も大好きな場所です」

 『浅草パラダイス』、そして新橋演舞場のお話をする美波さんの表情は、芝居の最後、女優として成功した沼沢八重が美しいドレスを着て浅草に帰ってくる場面を思い出させました。「この浅草こそ私にとってパラダイスでした」と輝く笑顔で言う八重。きっと美波さんにとって劇場もまたパラダイスなのだろうと。

富樫佳織の感客道

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