歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

上方舞が教えてくれる、日本文化の深み

 実は今回、一緒に歌舞伎を拝見しながら美波さんの新しい挑戦を発見することになりました。

富樫 「お話を伺っていると、立ち座りや着物のさばき方といった歌舞伎の所作を細かくご覧になっていますよね…それは『浅草パラダイス』の影響ですか?」

美波 「実は私、上方舞を習い始めたんです」

富樫 「上方舞ですか!」

 知人のご縁で、以前より興味のあった上方舞を習い始めたばかりだという美波さん。稽古の度に舞の所作に込められた意味を知り、日本が育んできた精神に感動を憶える日々だと言います。

美波 「上方舞の考え方は、現代劇、そして人として生きること全てに新しい発見を与えてくれます。例えば先日、お師匠さんに『人』という文字を頭の中に書いてみなさいと言われたんです。人という字はふたつのはらいでできていますよね」

 その太くて長いはらいは、男性。そして短くてしっかりと支えるはらいは女性、とお師匠さんはお話くださったそうです。女性は静かに支えるのが仁であると。

美波 「力を外に出すのではなく内に内に秘めていくことが、ひとつの表現と教わりました。そう言われて改めて考えると、抑えるということはとても強いエネルギーが必要なんです。歌舞伎の女方さんの表現を観ると、抑えることで芯の強さや凛とした心の美しさが所作のひとつひとつから滲み出ているなと思います。日本の表現、日本の心のあり方ってすごいですよね」

富樫 「美波さんは、幼い頃からヨーロッパで過ごしたり、短期でN.Yに滞在するなど海外の文化を深く吸収しているイメージがあります。それがここにきて、日本文化、さらには上方舞に触れようと思ったきっかけはあるのでしょうか?」

美波 「海外と日本を往復する中で、改めて日本の良さを認識することがどんどん蓄積していったということでしょうか。上方舞も舞を習得することはもちろんですが、お師匠さんのお話を伺っていると、物の考え方、人間としての在り方という基本的なことで学ぶことがたくさんあります」

富樫 「例えばどのようなことでしょうか?」

美波 「表現という場に出てくるものは演技として作られたものではなく、普段の生活や普段の自分の在り方の投影だということをお師匠さんに稽古をつけていただく中で感じます。例えば稽古のはじめに、ずっと正座でお話を伺うことがありますよね…」

富樫 「するとだいたい板場に正座で、浴衣の生地は薄いから足が痛くなりますよね…」

美波 「ええ。でもお師匠さんの話を聞いている時は、とてもおもしろいので痛さを忘れるんです。その後『じゃあ、お稽古しましょう。立って』と言われると、足が痛いので『どっこいしょ』という立ち方についなってしまう。すると『その立ち方じゃありません』とビシっと言われて…」

 表現は一瞬。しかし一瞬とは、その人間が生きる永遠の中で育てられる。
美波さんは日本人が育む精神性に深く共鳴しています。

 

富樫佳織の感客道

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