歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



(※3)『心中天網島 河庄』
近松門左衛門の名作『心中天網島』を改作したものに、俳優の工夫が加えられた上方和事代表作のひとつ。遊女に入れあげた上、愛想尽かしをされた治兵衛の絶望感を表現する登場の場面は和事の粋を表現していると言われる。

歌、舞、伎。それぞれのエッセンスに酔う

 「ブルーマン」は1980年代に3人のパフォーマーのストリートパフォーマンスとして生まれ、91年にはオフブロードウェイへ、その後、シカゴ、ボストンといったアメリカの各都市へと広がっていきました。現在はアメリカをはじめ、ベルリン、そして東京など、全7都市で上演されています。

富樫 「『ブルーマン』のステージを拝見して、歌舞伎と共通するエッセンスがあるなと思ったんです。まずはあのインパクトのあるメイク、言葉が分からなくても楽しめる分かりやすさや、社会諷刺が盛り込まれているところも」

アダム 「歌舞伎という文字は歌(ソング)、舞(ダンス)、伎(アクト)という意味を持っていますよね。まさに『ブルーマン』のステージにあるエッセンスと同じです。ロックが好きな観客はライブのように楽しむこともできるし、様々な視覚効果を取り入れてステージはどんどん進化しています」

富樫 「新しいものを取り入れ楽しんでいくのも歌舞伎の精神に似ています」

 三幕目は上方歌舞伎『心中天網島 河庄』(※3)。恋仲になった遊女に愛想尽かしをされた紙屋の若旦那・治兵衛が死を決意し、その心情と男女の情を細やかに表現した傑作です。芝居が幕となると、アダムさんは「素晴らしい!」と感極まりました。

アダム 「演技も、そして細かな心の動きを語る浄瑠璃も見事です。浄瑠璃の台詞は僕には分からないけれど、演じている俳優の胸の内が、胸に迫ってくるようでした」

 公演のため長期に亘って日本に暮らすアダムさんは、和太鼓を始めとする日本の楽器や音楽に深い興味を持っているそうです。取材の数日前まで佐渡島に行っていたのも、和太鼓のワークショップに参加するためでした。

アダム 「日本の楽器や音楽の表現力は幅広くて、とても深い。和太鼓のように力強い音、浄瑠璃のように骨太でありながら繊細なもの、『蜘蛛の拍子舞』で奏でられていた三味線は思わず一緒にリズムを取りたくなるほどカッコいい」

富樫 「ソロのパートはまるでロックみたいですよね」

アダム 「歌舞伎のお客さんは何度も芝居を観る人がいると聞きました。それは歌、舞、伎というエンターテイメントの要素が全て入っているから、飽きないし、何度観ても新鮮な発見があるんでしょうね」

 様々な要素が凝縮されているから何度観ても楽しめる。アダムさんのお話を伺っていると、歌舞伎と『ブルーマングループ』の共通点が見えてきました。

アダム 「『ブルーマングループ』もそうじゃないですか?」

富樫 「そうでもあるし、また、独特のメッセージがあります」

富樫佳織の感客道

バックナンバー